time after time    
 
来てみらんしょ in 福島    〜 5/3  その① 〜
 
 
 
 
 
【 Rui 】
 
 
基本的に、俺の運転で出かける時は「自由」であるコトが必須条件になってくる。
 
… まず、時間に縛られない。
… 次に、予定に縛られない。
最後に、立場に縛られない。
 
今回は両親の代理というコトで最後の項目は致し方ないにしても、他のニ点は譲れない。
つくしは妊娠初期で無理は出来ないわけだから、それは尚更のコト。
… 近場の二泊三日(予定)の旅。
この規定を遵守して、のんびりゆっくり、気ままに行きたいものだけど…。
 
 
『… お弁当持ったし、着替えも持ったし』
 
つくしと出かけるようになって、何時の間にか当たり前になってる決まり事。
 
その一。
必ず一日目の昼飯は、手作りの弁当。
 
はっきり言って、つくしの作る弁当は美味い。
小食と言われる俺が彼女の握った握り飯なら、二個三個と頬張るように食べる。
 
『やっと身体の大きさ分、食べるようになったね』
 
彼女は俺をそう言って笑うけど。
… わかってるのかな?
俺はつくしが作ったモノにしか、そんな食欲を見せていないってコト。
 
そして… 決まり事、その二。
移動は高速道路を使用せず、出来る限り一般道を使う。
 
これは俺の拘り、時間・予定に縛られないってコトにも通じるけれど、旅先までの行程も旅の一部なのだから、その土地その土地の雰囲気を味わいながら行きたいという、つくしの希望でもある。
故に関東近郊が目的地の場合は、一般道をひた走り、寄り道などを繰り返しながら、俺達は一日かけて、その場所に向かう。
 
… 両親から譲り受けた今回の旅の一日目・到着点は、南福島の温泉宿。
俺の頭の中では、都内を抜けて北上し、冬に滞在した日光付近の山道を越えて福島に下りて行く… という、道のりプランが出来ているけど。
何と言っても、何かしらのハプニングを起こしてくれる、つくしとの旅… 日暮れの頃までにチェックイン、今回はきちんと出来るだろうか?
 
 
つくしの身体と途中のハプニングを見越して、車はワンボックスを用意した。
 
『これならスピード出ないから、安心』
 
… などと呟くつくしを助手席に座らせ、車をスタートさせる。
 
都内を抜ける時だけ、高速道路を使用。
高速道路に乗り流れに乗り始めると段々周りの車に刺激され、思わずアクセルを踏み込んでしまう、俺。
 
『……! … う、わぁ…!?』
 
『あれ?』
 
つくしの驚愕の声に、我に返る。  
… そうだ、今日はいつもの車じゃ無い。
それに隣には、大切な「彼女」を乗せているんだった…。
 
『ゴメン… 何時ものクセ』
 
俺はアクセルを緩め速度を落として、何故かスピードにトラウマを持っているつくしを、安堵させた。
 
 
外環道の途中インターで高速道路を降り、ルート4を北上する。
高層の建造物が無くなり空が広く感じられると同時に、時折、遠目に山並みが見え始める。
違う日常の「スタート」… 旅への期待に昂る俺の気持ちを、更に高揚させる。
 
 
つくしは、車での移動中にイベントを探すコトがとても得意だ。
それは道の途中の立て看板であったり、案内板であったり… はたまた休憩に寄る、コンビニのおばさんの噂話であったりもする。
今回の出何処は、案内板。
 
『類、アウトレットがあるって。 大きいのかな』
 
… 「安い」とか「値引き」とかいう言葉に、未だ凄い反応を示す、彼女。
 
彼女には、一緒に暮らし始めてすぐ、生活費や食費の支払いに使うようにとカードを渡した。
… が、カードというものを使い慣れない彼女。
一ヶ月経過した時点でも使用した形跡が全く無くて。
 
『だって、自分の現金で間に合うんだもん』
 
『……』
 
俺だって男なんだから… 一緒に生活していて、そういう訳にはいかないでしょ?
 
仕方が無いので、以来俺は一ヶ月に一度、纏まった現金をつくしに渡すようにしている。
俺にとっては大した金額では無いのだけど、つくしは初めてそのお金を手にした時「こんなに!?」と驚愕の表情を浮かべていた。
そして、使い始めた今は、どうやらその半分以上を貯金に回しているらしい。
 
『最大級、だって… 行ってみる?』
 
『……。 … ううん、いい』
 
『……?』
 
つくしは少しの思案のあと、珍しく寄り道を拒否した。
いつもならどんな所でも、食いつくのに…。
まあ、目的地までの距離を考えれば、今日は寄り道の時間もあまり無い。
俺はあまり追及もせず、そのまま車を走らせた。
 
 
 
【 Tsukushi 】
 
 
ウィンドウショッピング大好きなあたしが、アウトレット探索を断った理由… それは「類」の存在にある。
 
女の子のパワーって凄い。
類が普通に歩いているだけでも、そこから波状効果のように周囲が色めき立つ。
類は当たり前の状況とでも捉えているのか、全く気にすること無く飄々しているけど、隣に居るあたしは落ち着かない。
 
コソコソ囁かれたり、写メ撮られたり… しまいにはあからさまに…。
 
『何? 隣の。 … オンナ? ばり邪魔』
 
… なんて言われたりするから。
流石のあたしも、気が滅入るんだ。
今回のアウトレットも、そんな「コト」が理由だったんだけど…。
 
 
… ふと思い出したコトがある。
 
あれは去年の秋の終わり、あたし達が「恋人」としての付き合いを始めて数ヶ月過ぎた頃。
表参道を二人、掌を繋ぎながら歩いて。
歩く速さを、あたしに合わせてくれる、類。
木枯らしが吹き始める季節、あたしの顔を覗き込みながら、寒くないかと尋ねる。
あたしが頸を振ると、そっと頬に掌を翳し…。
 
『ウソつき… 冷たいよ?』
 
… と、微笑を浮かべ。
とろけるような瞳に視線を奪われ、その場に立ち竦むあたし。
 
その時… 明らかにあたしに対して、後ろを通る女の子達から囁かれた一言。
 
『いい気になってんな、ブス』
 
……。 やっかみ? … だよね?
でも、その気持ち… 解る。
 
F4なんて呼ばれるスペシャルにカッコいい男の子と、どう転んでも美人とはいえないパンピーのあたし。
「何であたし…?」って、自分でも思うもの。
 
『……』
 
その声に反応し、あたしが類から視線を外した瞬間、類は頬に翳していた掌であたしの顎をクイッと持ち上げ、唇に深い口づけを施した。
 
『!!』
 
さっき囁いていった女の子達から奇声があがる。
あたしは驚きで瞳を見開き、口づけを解いた類を見詰めた。
 
『暖まった…?
 気持ちが、冷めてく… みたいだったから』
 
呟きながら、今度は頬にキスをくれる。
明らかにさっきの子達への「魅せしめ」。
それもこんな公衆の面前で…。
 
… でも、確かに心は「暖まって」いた。
類の優しさに癒されて。
 
 
そうだ… 類はどんな時も、あたしを包んでくれる。
方法はハチャメチャではあるけれど、あたしを悲しい想いにさせたままには、絶対しない。
 
気にするコト… 無かったかな?
アウトレットの寄り道、頼めばよかった。
 
 
そんなコトを思い出しているうちに、急に道が暗がりに入った。
何? さっきまで凄い晴天だったのに。
 
『……? 曇?』
 
『違う、杉並木』
 
『杉並木? 日光の? え? もうそこまで来たの?
 うわぁ、懐かしい! 小学校の修学旅行以来かな』
 
『あのね… つくしが寝てただけで、冬も来てる。
 この道通って』
 
『… あ、そうでしたか』
 
恐縮で固まるあたしを、類はケラケラと笑った。
 
 
 
 
 
※ 本日より類くん・つくしちゃんの福島旅行記が始まります。 此のお話は先の大震災の折、福島応援企画として描いたものです。 何時も以上にgreenの妄想が暴走しますので、その様な描写が苦手な方はスルーしてくださいね。 ホントこんなお話ばかりですいませんえーん