桜の記憶  prayer 32





その頃、優紀は眠るつくしの隣に座りながら、
ぼんやりと昨夜からのコトを考えていた。
昨夕… 総二郎よりもらった電話から動き出した 「出来事」。
今、傍らで寝息をたてる 「彼女」は其の渦中の人物だ。

高校生の時、日本一巨大な財閥の息子に見初められ、大学卒業と同時に結婚した 「親友」。
端から見れば 「シンデレラストーリー」… 女の子なら誰でも夢見る 「シチュエーション」を体現した。

でも 「夢のような」人生を歩む彼女を実際に見てみれば「幸せ」というモノとは程遠い世界で、ひとり苦しんで居て…。

…「理想的な結婚」は、愛を紡ぐモノではなく孤独との戦いを強いられるモノで。
どんなに貧しくても、愛する人がずっと傍に居ること… 其の想いを、相手と分かち合うコトが出来るというコトが、一番の幸福なのだと気付かされる。

そんな中で、彼女は真実の想いに辿り着き。
そして其の想いの相手である男性も、彼女に想いを寄せていて。

… どんなに離れても、必ず惹き寄せ合うふたり…。

相手が夫の親友であると… また相手も、彼女が親友の妻であると、解っていても。
其れでも惹かれあい、掌を取りあおうとする。

其の想いや行為は 「倫理」 に反しているモノなのだと、彼女も彼も… ちゃんと理解しているのに。


其れでも、互いを欲し… 求めて。

唯一無二のモノと… 認識して。


… いいな。 … 憧れる。


多分、花沢さんとつくしは「心」が結ばれている者なんだ。

結婚なんて儀式が無くても… どんなに身体が離れていても。
心だけは繋がり続けて… 互いを支えあってる。


そんな相手が居るって… 羨ましい。

私もそんな相手… 見つけられたらいいのに。
 


『う…ん、るい…』


寝返りをうちながら、愛しい人の名を呼ぶ。


… まったく、呑気なんだから。


『私と西門さんがどれだけ心配してるか… 解ってるの?
 直ぐ、突っ走っちゃってさ… もう…』


思わず口から出る、ぼやきの言の葉。
… でも、口元は綻ぶ。


… 幸せなんだね、つくし。
ホントに良かった…。


あの秋の日… 涙を流しながら呟かれた、告白。
壊れそうになっている彼女を目の前にしても、何も言えなかった。

あれから優紀は、支えることが出来なかった自分の不甲斐なさを、つくしに対し心の中で詫び続けていた。

そして、あの時心に浮かんだ 「妬み」に似た想い。
そんな自分の中の醜い部分を認識して、尚のこと落ち込む日々を過ごして居たが。

… 今朝、出迎えた玄関先で見せられた、太陽のようなつくしの笑顔。
類と一夜を共に過ごしたことで、自分を取り戻してきた親友を見て、優紀の心も晴れていく気がした。


… つくしの笑顔は、接する者達を幸せにする。


だから…「あなた自身」が幸せじゃないといけないんだよ、つくし。
あなたがきちんと自分の気持ちに素直になって、前に進んで行かなければ。
周りのみんなが、悲しい思いをする。

… 今度こそ、私もあなたの支えになるから。
こうして休息をとらせるコト位しか、出来ないかもしれないけど。
其れでも、私はあなたの傍にずっと居る… 絶対ひとりにはしない。
だから、ひとりで背負い込むことだけはしないで… つらくなったら振り向いて、私の存在に気付いて…。


つくしの寝顔を見ながら優紀は、此の親友の 「幸せ」が永遠に続くコトを願った。



つくしは夕方近くに目を覚ました。
そして優紀から、類が再びイタリアに発ったことを聞く。


『そっか… 行っちゃったんだ…』


一瞬、憂いを帯びた表情を見せる。  
… が、次の瞬間には自身を奮い立たせるように笑顔を作り。


『大丈夫よ、優紀。 朝、話したでしょ?
 あたし、今度こそ自分の想いを見失わないから。
 自分の道… ちゃんと見えてるから』


… そう呟く時の表情が、とても清々しくて。
漆黒の瞳は煌めきを魅せ… 前進しようとするつくしの強い意志を感じさせた。

其の姿は、優紀を癒やし… そして、安心させる。


『良かったね。つくし。
 花沢さんと会えて… 二人で未来、見つけられて。
 … ホント、良かった…』


… 笑顔のまま、涙を幾筋も流し言葉を返した。


『… 優紀…』

『… 心配だったんだよ。
 此のまま道明寺さんと一緒に居たら、一生つくしが笑顔を無くしちゃうんじゃないかって』

『……』

『だから… 今あなたが笑ってるコトが、私は何より嬉しい。
 … 此の先また大変になってくるけど。
 でも其の覚悟は、つくし…  出来てるんでしょう?』


優紀の問いに、つくしは大きな頷きで応える。


『私はどんな時も、つくしの味方だよ。  
 ずっとつくしが笑顔で居られるように、私も支えるから… 頑張ろうね!』

『ありがとう… ホントありがとう、優紀。
 あたし、類と二人で頑張らなくちゃ… って。
 世界中を敵に回すコトになっても、類が居ればって… 思ってたけど。
 こんな近くに… こんなにも頼もしい味方が居た』


つくしもつられて、涙を流した。
ふたり… 泣き顔を見合わせながら、話をする。


でも… 悲しみの涙ではない。

友情の 「証」とも言える、暖かな涙だ。

其の証拠に、ふたりとも口元には、笑みを浮かべ…。


… 相手の幸せを喜び、また、その思いに感謝をして。
そして、此の先も変わらぬ友情を互いに確認し合った。


『… 西門さんもね、心配してるの。
 昨夜から二回も、私に電話があったんだよ。
 … つくしは大丈夫かって』

『西門さんが…』

『つくしが目を覚ましたら、連絡するって言ってあるの。
 今は多分、稽古の最中だから… もう少ししたら、メールしてみようと思うんだけど。
 つくしは時間、大丈夫?』

『……』


司はもう、NYに戻ったろうか。
はっきりと話をしなければと、思いつつも…。


今日だけは… 未だ 「余韻」に浸っていたい。


… そんな気持ちになる。

 
まだ… 帰りたくない。


『… 大丈夫。
 あとでタマ先輩に連絡するから。
 それに西門さんにも、きちんとお礼言いたいし』

『わかった。
 それじゃ西門さんに予定、聞いてみるね。
 … また女の子と一緒かもしれないけど』


そう言って、優紀はいつもの下がり眉になる笑顔を見せた。





※  女の子の友情編おねがい すいません… 司くんからは逃げましたあせる 今しばらく、類くんvs司くんのお話はお待ちくださいチュー 感想コメント・いいねポチ頂けると励みになります。 よろしくお願いいたしますクローバー