桜の記憶 prayer 22
声に出し呼んでみる。
しかし、類からの返事はやはり無く。
…リビング?
確認しようと、つくしはケットを身体に巻き付けベッドから降りようする。
… が、力が入らず、ガクリと床に崩れ落ちて。
… シャワー?
「パタン…」
……。
今のあたしには… 此の香りをカラダに残して置くコトも、許されないんだ。
類はつくしの隣に座り、其の肩を抱き寄せた。
… そして其処に、赤子のような安堵を得て…。
そうだ… あたしはあなたと居るだけで、絶対的な安心を得られ、幸せな想いに浸れていた。
何時も… 自分だけ、勝手に。
あなたの想いにも、自分の本当の気持ちにも、真っ直ぐに向き合おうともせず。
咄嗟、傍らの椅子にしがみつくが、其れもまたグラリと倒れ…。
… 巻き付けたケットは、無残にはだけ。
「ガタン!」
『きゃあっ!』
… 巻き付けたケットは、無残にはだけ。
つくしは全裸で、床に叩きつけられた。
…と同時に、バスローブを身に纏った類が部屋に戻って来る。
… ホッ…。
其の姿を認めた途端、つくしの口から安堵の吐息が漏れた。
『牧野… 起きた?
……? …何してるの?』
……? …何してるの?』
『る…い』
『… ん? … あ、ごめん。
探してたんだ?』
そう囁きながらつくしの前に跪き、はだけ落ちてしまったケットを摘み上げる。
瞬間、つくしは今の自分の姿に気付き、慌てて両腕で胸元を隠した。
『… おはよ。
ぐっすり眠ってたからさ… 起こさなかった』
ぐっすり眠ってたからさ… 起こさなかった』
身体にケットを巻き付けてやりながら、類はゆっくりとつくしの額に唇を寄せる。
… 唇の感触と共に、類の肌から立ちのぼる「香り」がつくしの鼻腔を擽り。
… あ… 類の匂い。
… 石鹸の香りだ…。
『……』
安心感からか、つくしは脱力… ぼんやりと、類の顔を見つめた。
そんなつくしの頬に指先を添え、類は囁きをかける。
『モーニング、頼んだから。
先に汗、流しておいで?
あ… ひとりでシャワー、浴びれる?
あ… ひとりでシャワー、浴びれる?
一緒に入ろうか?』
… シャワー?
類と… 一緒に…?
……。
触れられているつくしの頬が急激に紅みを増す。
『あわわ… い、いいよ! 一人で浴びれる!』
伴い、挙動も不審に陥り、手足をバタつかせながら後退り… 慌てて否定の言葉を口にして。
そんなつくしを、類はケラケラと声を出して笑い、そして脇を抱えるようにして立たせると、肩を抱きつつバスルームへと案内した。
『… 此処だよ。
未だ時間あるし、バスも使ったら?
コーヒー、落としておくから』
『… うん、ありがとう』
再び、つくしはひとり… バスルームに残された。
類が使用した直後であろうバスルームは、噎せ返るほどの湯気と熱気で満ちていた。
… ケットを外し置き、シャワーのコックを開栓すると、頭上近くに翳したノズルが、一斉に淡い飛沫を散らせてくる。
先ほどキスを受けた際に感じた香りが、蒸気に混じりつくしを包み込んだ。
…「香り」。
きっと自分には、昨夜抱かれた際に付いた類の香りが、今も染みついてる。
… 消したく無い。
ずっと類の香りに… 類の纏う空気に、包まれていたいのに。
此の、類の「残像」を… 此の「一夜」を。
記憶の中にしか、残せない…。
カタチとして… 何も残しておけないなんて。
……。
つくしは水滴から身体を庇うように、両腕で肩を抱き締め、バスルームの床に座り込んだ。
… 涙が溢れる。
幸せな此の時間を過ごした後には、また「あの家」に戻り、辛い時間を過ごさなければならない。
… あたしは。
… 堪えられるのだろうか…?
類が迎えに来るまで… 自分の羽を取り戻すまで。
また… ひとり、で…。
あの「空虚」と「孤独」に…。
シャワーの飛沫を浴びながら、つくしは必死に声を抑ながら、泣いた。
類は、バスルームからの響音が、滴が床を叩く音だけであることに気づく。
『牧野?』
外から声をかける。
『……』
… が、返事がない。
『入るよ』
静かにドアを開き中を覗くと、真っ白な渦巻く湯気の中に、バスタブに身を預けながら伏せている、つくしの姿を見つけた。
『牧野!?』
慌てて類が駆け寄ると同時に、つくしも類の存在に気付き、顔を上げる。
『類…』
虚ろな瞳で、類を見つめて。
『どうした? 大丈夫?』
類はシャワーを止め、バスローブで濡れたままのつくしを包み込むと、そのまま抱き上げベッドルームに運び込んだ。
そしてベッドの縁に座らせ、ずぶ濡れになった髪をバスタオルで包み拭いながら、つくしの行為を諫める。
『ばか… 風邪ひくよ?』
『……』
つくしは何も言わず、俯いたままで… ただただずっと、肩を震わせ続けていた。
理由は… 類にも解る。
… つくしの心に、渦巻く想い。
類はつくしの隣に座り、其の肩を抱き寄せた。
つくしもまた無言のまま、類の胸に身体を預ける。
涙が一筋… つくしの頬を伝う。
『… 落ち着いた…?』
呟きと共に、類の掌がつくしの頬に触れて… 流れた涙の跡を優しく拭った。
『うん…』
つくしはコクンと頷く。
触れる類の掌が、温かかった。
触れる類の掌が、温かかった。
『牧野』
類はベッドから立ち上がると、今度はつくしの前に跪き、見上げるようにして視線を合わせてくる。
膝に置かれたつくしの手を己の掌に載せ、優しく… 淡く握り締めた。
… そして誓いをたてるように、つくしの手の甲にキスを落とす。
『… 類…!』
つくしは驚愕から、瞳を大きく見開きつつ類の行動を見守る。
… 再び顔を上げ、つくしを見上げる、類の瞳。
其の「薄茶」とつくしの「漆黒」の、視線が絡んで。
… 麗しい瞳 …。
何故、類の瞳はこんなに綺麗で、あたしの心を惹きつけ続けるのだろう。
其の果て無い空のような瞳に、何時もあたしは吸い込まれて。
其の果て無い空のような瞳に、何時もあたしは吸い込まれて。
そうだ… あたしはあなたと居るだけで、絶対的な安心を得られ、幸せな想いに浸れていた。
何時も… 自分だけ、勝手に。
あなたの想いにも、自分の本当の気持ちにも、真っ直ぐに向き合おうともせず。
ただ何時も、其の幻の温床に浸り、ひとり… 満足して。
喪失してから気付いた… 其の場所、時間、存在に自分がどれだけ依存していたか… 必要としていたのかを。
喪失してから気付いた… 其の場所、時間、存在に自分がどれだけ依存していたか… 必要としていたのかを。
… 今でも、間に合うの?
今からでも…?
……。
つくしの、憂いが隠る黒耀の瞳。
類はつくしの瞳から視線を逸らさず、じっと見つめたままで呟きを始めた。
類はつくしの瞳から視線を逸らさず、じっと見つめたままで呟きを始めた。
『… 約束して。
泣くのは、俺の前だけで… って』
『……』
つくしの瞳が、再び見開かれる。
何も言葉を返せず、ただ類の瞳を見つめ続けて。
そんなつくしに、類は再度「懇願」をする。
何も言葉を返せず、ただ類の瞳を見つめ続けて。
そんなつくしに、類は再度「懇願」をする。
『… 約束して』
※ つくしちゃん、やはりちょっと落ち込み気味… 果たして復活できるでしょうか??
昨夜は寝落ちしました
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