桜の記憶  prayer 21





湿り気を帯びた類の背中は、汗が冷えたのか… つくしと重なる場所の素肌に比べ、ひんやりとしていて。

咄嗟温めようと、つくしは触れる腕に力を籠める。

… 伴い、改めて感じる、類の身体の「カタチ」。
思いのほか広い肩や背中に、驚きを覚えて。


… こんなに大きいんだ。
… 類の背中は。

服を着てると、とても華奢な感じに見えるのに。
こうして触れる彼の背中は、間違い無く凛々しい… 強い「男」のモノで。

何時も惹かれ… そして支えてもらってきた。
… 其の背を追い、また、其の身体に抱かれながら。

でも… そんな彼も。
あたししか知らない「弱い」一面… 併せ持ってる。


… こんなあたしを、頼ってくれるひと。
必要だと、言ってくれるひと。

あたしの存在を… 認めてくれるひと。


そう言ってくれる、此の人の為に。
此れからのあたしは、生きて行きたい。
此の人の傍で、日々を過ごし… 語らい、触れ合い。


そして、共に… 未来を作りたい…。


… つくしは類のカラダを淡く抱き締めながら、想いの余韻に浸った。


間も無くして、落ち着きを取り戻した類は、つくしの身体を抱き抱えながら、ベッドに仰向けにさせる。

ほんの… 触れる位の頬摺りをした後、優しいキスを唇に落とし。
… 再び腰を動かし始めた。

つくしの肌に、たくさんのキスの雨を降らせる。
額に… 頬に… 目元に… 春の日溜まりのような、淡い口付け。

半身はつくしの膣(なか)を、ゆるゆる… 寄せては引き… し。

始め細波のごとく小さな刺激でしかなかった、そんな類の愛撫は、次第に大きな波のうねりとなり。
つくしを快感の坩堝へと、落としていく。


… 其処から得る快楽の余韻が、何時までもつくしを包み続けて…


類の動きが、速く… そして、激しくなる。

つくしの胎内から心地よい痺れが何度も全身を襲い、其の度に身体は震え悶え、甘い吐息が声になった。


… そして、つくしが再び光の中に解放される瞬間、類にもまた、終幕の時が訪れる。


… 半身に集中する、昂揚。

温かく気持ちの良い此の空間に、ずっと留まっていたいとココロは願うのに。
己の「昂奮」は高まり続け、彼女の中に放出されたがる。


『… ヤバ… 良すぎ…』

『… る、い…』


意識を手放しつつあるつくしの掌が、空を彷徨い、類を求めた。
類は其の掌を掴み取り指を絡め繋ぐと、そのままつくしの耳元辺りに倒れ込み、呟きを寄せる。


『… ずっと、あんたの中…。
 居られたら、いいのに… く… っ…!』


掠れる声… 類の意識も、遠退きつつある。

… 先に光線を見たのは、つくしだった。


『類…! … あぁっ…! ダメッ!』


そんな嬌声をあげると同時、つくしは身体を大きく震わせ。
背中をしならせながら、全身を硬直させた。

類の半身にも、つくしの襞から派生する激しい痙攣と熱い溢蜜とが、伝い絡まり。


『… つ… っ…!』


… 瞬間。
類の半身も其の脈動を一際大きくさせ、其処に溜まっていた情欲の証を、つくしの中へ一気に放出した。


……。



ふたり… 光溢れる白く眩い世界に、包まれる。

波間に浮かび、淡い波動を受けながら…。
果てのない海… ふたりだけで漂っているかのような、不思議な感覚。


… 幸福感だけを感じて…。


… ふと類は、耳元で小さな笑い声を聴いた気がした。

 
牧野…?  

… 笑ってる?


……。


… どれくらい、そうしていただろうか。

意識を戻した時、類はうつ伏せの状態でつくしの上に全身を投げ出し、ベッドに横たわっていた。
身体は脱力したままで、未だ力が入らない。

其れでも、此のままではつくしが潰れてしまう… と、ゆっくりと身体を起こし、つくしに重みがかからないように動こうとした… 瞬間。
つくしの左掌が突然、類の背を抱いた。


『… 牧野? … 気づいた?』


類は身体を浮かせながら、つくしの顔を覗き込む。
するとつくしは、類の身体の下… 薄く瞼を開き。
未だ夢現… ぼんやりとしながらも、類の顔を視認すると、微笑みを浮かべた。
そして類の背に回した腕に再び力を込めながら、言葉を紡ぐ。


『お願い、類… もう少し、あたしの上に居て。
 類の重みが、気持ちいい…。
 触れてる肌が、類なんだ… って思うと。
 とても幸せ… 感じるの』

『… 牧野』


類はつくしの首と背中に腕をまわすと、自分に密接させるように抱き抱いた。
身体中をしっとりと湿らせる汗は、二人の裸体を更に密着… ひとつにさせ、相手の熱が互いの身体に溶け合うように、染み込んでくる。

確かに… 不思議な安堵感と、幸福感を得られて。


『……』


類は不意に身体を反転させ、つくしを上にさせた。


『わっ…!』


小さなつくしの身体は、類の身体に全身が載ってしまう。


『… ホントだ。
 人の重みって、気持ちいいね』


胸元に載るつくしを見下ろしながら、何が可笑しいのか… クスクスと笑い囁く、類。


『やだ、重くない?』


つくしの問いにも、微笑みで応えを返すのみで。
其の状態のまま片手でケットを探り寄せると、重なる二人の身体にフワリと覆い被せた。

そして、つくしの黒髪に指を絡めながら、蕩けそうな蜂蜜色の瞳を、つくしに向けて…。


『… 幸せ。
 だから… おりるなよ?
 此のままで… い… て…』

『… 類…?』


つくしが胸元から見上げていると、類は静かに瞼を閉じ、そのまま小さな寝息をたて始める。


『… 寝ちゃった?』


つくしの声にも、反応せず。
… 熟睡している。


でも、何時の間にか背中に回されていた類の腕が、つくしの身体を「ぎゅっ」とキツく抱き締めていて。

… 何処にも行かせない… と、言われているようで。

それに… 胸板に寄せた頬に伝わる、類の鼓動。
其の、規則正しく… 心地のよいリズム。

つくしの心に安寧を与え、また、眠りの世界にも誘う…。


… つくしは今一度、類の顔を見つめた。


昔と変わらない、少年のような寝顔。
長い睫… 灯りに透ける髪。
淡い寝息を溢す… 綺麗な唇。


… つくしの頬に微笑が浮かぶ。

其のままつくしも、類の胸に顔を伏せて。
彼の鼓動に包まれながら、眠りに就いた。


……。


「パタン…」


… ドアの閉まる音で、目が覚める

つくしはゆっくりと、瞼を開けた。

何時の間にか窓辺のカーテンは閉められていて、其の隙間からは透明な光が射し込んでいる。


… 朝 …?

未だ微睡む意識の中、ゆっくりと身体を起こす。
周りを見回すが、何故かベッドに居るのは自分ひとりで… 類は居ない。


… 類? 何処?


ベッドルームに、人気は無く。
其の状況に、つくしの胸には、微かな不安が湧き起こる。
 

まさか、夢だったなんて… 言わないよね?

やっぱり無理だ… とか、無いよね?


……。


『… 類?』





※  燃え尽きた…萌え尽きたよ…greenニヤリ やっとらぶらぶ終了ですビックリマーク 此のしつこいふたりにお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました爆笑 お話はまだまだ続きます。 此れからもお付き合いのほどよろしくお願いいたしますおねがい 感想コメント等頂けると嬉しいです。 此方も併せてお願い致しますクローバー