桜の記憶 complex 9
司はつくしが今、此のような状態にあるコトにも、気付いてはいないだろう。
月に一度しか会わない夫婦… 歪みがうまれて当然だ。
… 司に、進言すべきなのか?
しかし、まともに話を聞くだろうか?
話した途端にキレ出して、更につくしを追い込みかねない。
… くそっ!
あいつも何時まで経っても「ガキ」だからな。
聞く耳など、持ちはしないだろう。
あいつも何時まで経っても「ガキ」だからな。
聞く耳など、持ちはしないだろう。
総二郎は目の前で俯くつくしをジッと見つめながら、思案を巡らせ続けた。
… それにしても、何故自分はこんなにも、つくしのことが気になるのだろう?
此の干渉が、恋愛感情からくるものでないことは、はっきりと言えるが。
恋愛感情などと云うものがなくても… 男女という柵を生みそうな間柄であっても、つくしは自分にとってかけがえのない存在であると、感じているからだろう。
F3という幼馴染とは、また違った形の「親友」。
F3という幼馴染とは、また違った形の「親友」。
つくしとの出会いで、殺伐としていた高校生活が良い意味で華やかになり、また自分自身の考えや想いとも、向き合うきっかけが出来たのだ。
隣に座る優紀も含め、二人は総二郎にとって革命を起こしてくれた相手だった。
だからこそ、大切にしてやりたい。
こいつらを、守ってやりたいと思う。
こいつらを、守ってやりたいと思う。
今度は、俺が… 「親友」として。
「親友」…。
類には… 言うべきなのか? … 此の状況を。
『類は…』
総二郎が考慮しているところに、つくしがゆっくりと口を開き、呟く。
『そんな時に、必ずそばに居てくれて… すごく自然に。
あたしは彼の気持ち… 知っていたのに。
今、思うと、甘えすぎてたんだよね… 類に。
でも類は… 其の想いをあたしに押し付けることなんて、一度も無かった…』
今、思うと、甘えすぎてたんだよね… 類に。
でも類は… 其の想いをあたしに押し付けることなんて、一度も無かった…』
つくしの瞳からは、絶えず涙が溢れ続ける。
しかし口元は、小さな微笑みを浮かべていて。
… 多分に、無意識に。
しかし口元は、小さな微笑みを浮かべていて。
… 多分に、無意識に。
其の表情を見せられた総二郎と優紀の心は、切なさとやるせなさで、締め付けられる。
… つくしの「本当の想い」が、ひしひしと伝わってくるから。
『… でもね? 西門さん… 優紀。
あたしが一番好きなのは、やっぱり道明寺だって。
あたしが一番好きなのは、やっぱり道明寺だって。
ずっと自分では… 思ってた。
離れていても、心は繋がっているんだから… って』
涙を堪えるように顎を少しあげて、無理やり笑顔を見せようとする。
優紀は膝上できつく握られているつくしの左手の拳に、そっと自分の掌を添えた。
つくしは顔を少し傾け、優紀に微笑を送る。
そして小さな深呼吸をした後、再び話を続けた。
『あたしの中の均衡が崩れてしまったのは… 類がイタリアに行くって、知った時…』
右手の甲で涙を掬いとり、優紀から受けたハンカチに染み込ませる。
そのままハンカチを、キュッと握り締めた。
そのままハンカチを、キュッと握り締めた。
『西門さんと美作さんに、あの時… 類がイタリアに行くって聞いて。
あたしは、自分の足元が崩れて行く気がした。
あたしは、自分の足元が崩れて行く気がした。
類が居ないなんて、考えたコト無かったから。
だから、あたし… 類に… ひどいことを…』
『……』
… あの、桜の木の下
… 二人だけの、薄紅色の世界
… 互いの、真実の想いを知り
… 唇をあわせた…
… 「秒速5センチ」の関係でしかいられないと
ふたり… わかっていたのに
『… 類が居なくなるなんて、考えられなかった…考えたくなかった。
居なくなっちゃうって、思っただけで。
胸が… 張り裂けそうで』
喉元が、圧迫される。
あの別れの時を思い出し… また、結婚式の前の「誓い」を振り返り。
… もう二度と、あの腕に抱き締められることは無い。
そう思うだけで想いがこみ上げ、高ぶってゆく感情。
そう思うだけで想いがこみ上げ、高ぶってゆく感情。
涙は止めどなく、溢れ続け…。
『つくしは道明寺さんよりも… 花沢さんを好きになってしまったの?』
つくしをじっと見つめながら、優紀が呟くように尋ねる。
… 好き? … 類を?
涙の流し過ぎで逆上せたようになっている頭の中、つくしは類への想いを、己に問い直した。
『類を初めて好きになった時と、今の気持ちは… 違うの。
あの時は会えるだけで嬉しくて… 見せてくれた笑顔は、あたしの宝物で。
今も同じ想いはあるけど… もっと… もっと。
大きな存在…』
『……』
つくしの言葉を聞き、総二郎は類の呟きを思い出していた。
… 「俺には、牧野だけだから」…
… つくしもまた、類をかけがえのない相手だと思っている。
『あたしは… 道明寺を好きだと言いながら必ずその陰に、類を見ていた。
あたしが道明寺に寄り添う時、後ろには必ず類が居てくれて…。
あたしが道明寺に寄り添う時、後ろには必ず類が居てくれて…。
あたしの想いを、何時も支えてくれてた。
… 類が居なくなる。
あたしと道明寺が結婚することで、そんな関係が無くなってしまう… その時になって。
あたしと道明寺が結婚することで、そんな関係が無くなってしまう… その時になって。
あたしは、自分の一番の想いに… 気付いてしまった』
『西門さんの言う通りなの。
あたしは自分の想いに気付いていながら、流されてしまった。
あたしは自分の想いに気付いていながら、流されてしまった。
だから… わかってる。
もう、どうにもならないってこと。
もう、どうにもならないってこと。
あたしは、道明寺つくしとして、生きて行く。
類にはあの宝物のような笑顔、ずっと見せてくれることを… 幸せでいることだけを、願って。
だから自分なりに頑張ってるつもりだったんだけど…。
二人に心配かけてるようじゃ… あは、ダメだね…?』
思い切り口角をあげた「元気」な笑顔を。
しかしどんなに口元が笑っていようと、目尻に溜まる涙… 震え続ける声で、つくしの本当の「想い」は、総二郎と優紀に全て伝わっていってしまう。
『……』
… 総二郎の腕が、つくしに向かい、静かに伸びる。
その動きに気付いた優紀の心音が「ドクン」と大きく響いた。
… そして身動きひとつせず、総二郎の行動を見つめる。
総二郎の腕は、つくしの頭に向かい伸びて行き。
その大きな掌でつくしの黒髪を「くしゅ」っと掴むと、指先に軽く絡め… 優しく淡く、梳き流して。
… まるで我慢をする子供を、なだめるかのように。
一瞬、驚きの表情を見せたつくしだが、次の瞬間にはとても穏やかな微笑を、総二郎に向かい浮かべた。
… 優紀には、そのつくしの表情が、総二郎に対し心を開いたことを表しているように思えた。
つくしのことを心配しながら、総二郎とつくしの交流を見て、羨ましく… また、妬んでいる自分が居る。
そして… そんな気持ちを持ってしまうことを、恥じている自分も。
… なんで、私は…。
こんな時にまで、自分のことばかり…。
こんな時にまで、自分のことばかり…。
優紀は想いが滲み出てしまうのを気付かれまいと、そっと瞼を閉じた。
… 様々な想いが、交錯してゆく…。
※ 優紀ちゃんの女の子らしい気持ち… 寄り添ってあげたくなります 此の子にも幸せになって欲しいなあ 感想コメント・いいねポチ頂けると励みになります よろしくお願いいたします