桜の記憶  complex 3




司もまた、バスローブのみを身に纏い、つくしの戻りを待っていた。
ゆっくりと立ち上がりつくしが佇む場所までやってくると、無言のまま右手をつくしの耳元へと翳す。

つくしの身体が、電流を受けたようにピクリと震えた。
そんなつくしの反応を愛おしむように、司はつくしの濡れた髪に優しく指を絡めてゆく。


『馬鹿野郎… こんな濡らして。 
 また熱… 出してーのか…?』


呟きながら、両掌をつくしの頬に寄せて。
包みこまれ、固定される頬… 司の唇がゆっくりと近づき、つくしの唇に触れる。

その唇は、首筋、鎖骨へと徐々に伝い降りてゆき。
… 伴い、つくしが首にかけていたタオルは、司によって床へと落とされた。


『あ… 道明寺… タオル、が…』

『……


つくしの微かな抵抗を含む呟きに、司が言葉を返すことはなく。
自身の肩からバスローブを外しながら、つくしの肌に唇を這わせ続ける。

胸の… 丁度、心臓辺りに触れた時、突如其処を噛むように吸って。


『あ… っ…!』


… つくしの胸元に、紅い「薔薇」のような跡が残る。

薔薇… 道明寺家のシルシともいえる花。

その跡を認めながらも、つくしは緊張のあまり動けず… 胸元を開襟させられたまま、立ち竦むばかりで。

一度唇が離され、ふたり向かい合い、互いを見つめる。
司の右手がつくしの胸元に近づき、先ほど付いた「紅い薔薇」を指先でそっとなぞった。
つくしの身体はそんな微かな刺激にも反応し、小刻みに震え始める。

… 司が一言、呟く。


『お前は… 俺のもんだ』

『……』


… つくしの瞳が揺れる。


此の気持ちは、なんなのだろう…。
心が… 締め付けられるよう。

紅い薔薇に、再び口づけをされて… まるで誓いを、たてるかのように。


… つくしは、わからなくなっていた。

司は、確かに自分の体に触れて居る。
でも、感覚がない… 身体は反応しているのに。

あたしは… 何処に居るの?


唇が離された、次の瞬間。
つくしは突然、両足を掬われるようにして抱き上げられた。


『きゃっ!』


そのままベッドに連れて行かれ、寝かされる。

司がつくしに覆い被さるようにして、上になった。
… 全身が司に囲われ、陰になる…。


『道明寺…』  


… 震える、つくしの声。


『緊張すんなよ… 俺にまでうつる…』


そう呟く司の声も、とても小さく… か細くて。

… 静かに、唇を合わせてくる。
淡く… 優しく。


再び肌を這うように、唇が降りてゆく。
バスローブの紐がはずされ、肩からゆるりと脱がされた。

… 胸元が、開かれる。
右胸の頂は唇に含まれ、左胸は其の大きな掌に包まれた。

司の舌や掌が身体を刺激する度に、つくしの中に何かが溜まっていく。
溜まるモノを吐き出そうとするかのように、口から声が漏れ続ける。

… 自分のモノとは、思えないような昂りの声が。


『あ… やぁ…!』


『… つくし…』


司の愛撫は、胸から脇へ… 俯せにさせられ、背中へと移動してゆく。
背筋に沿って、ゆっくりと舌が這わせられ。
つくしの背中が、逃げるように仰け反り反転する。

… 司と視線が、絡む。


『… あ』

『… んな顔するな。 大丈夫だから…』

『……』


… あたし…
今、どんな顔をして、道明寺を見ているんだろう。

大丈夫って… 何が、大丈夫なの?
… 心は未だ、身体に戻って居なくて。

まるで… 他人事のようで。


司の手が、つくしの秘部に伸びてきた。

つくしは成されるままに、司の動きを見つめるだけで。

指先が、窪みに触れる。
司の愛撫によりつくしの身体は、既にその窪みから、溢れんばかりの滴を湛えさせている。

身体だけは… 司を受け入れる準備が、出来て居る…。


『…すげぇ…』


司の独り言のような呟き。

指先をゆっくりと窪みに沈め、泉の中をかき乱す。
泉より掬いだした湿り気を帯びた指で、既に滴により濡れている傍らの蕾を、なぶるように刺激して。


『あ! あぁっ…』


つくしの発する声は一段と高くなり。
司の指の動きに合わせ、身体は反応し震え続けた。

秘部に向かい、圧迫にも似た高揚が溜まっていく。
溜まる緊張を放出しようと、泉からは愛液が溢れ口元からは嬌声が迸る。

その間にも司の唇はつくしの体中を啄み、更につくしの精神を、別世界へと誘って行こうとする。


… あたしは、どうなるんだろう…


続けられる愛撫に、身体が足の指先から硬直をはじめた… 瞬間。
突然、司の身体がつくしから離れた。


つくしは、身体から力が抜けるのを感じた。
小さく息継ぎし、上がった息を調える。

司は改めて、つくしの身体を上から眺めていた。
そして纏っていたバスローブを脱ぎ捨て、再びつくしを覆う。

両頬を包み、囁きを寄せて…。


『愛してる、つくし… やっと「俺のモノ」に…』

『……』


「俺のモノ」… 何度も繰り返し呟かれる、司の台詞。

その言葉が鼓膜に触れる度に、つくしの漆黒の瞳が揺らぎ、潤みを帯びる。
… 司は其の涙に、気づいてはいないようだった。

首筋に唇を寄せ、胸元の紅い薔薇を舌先でツッと舐めると、そのまま下方に視線を向け、自身の半身をつくしの泉へ、前触れもなく挿入した。


『あぁっ!』


つくしから叫びにも似た嬌声が、あがる。

涙が… 頬を伝う。
痛みの涙… ではない。
心が… 泣いてる。 あたしの心…。

… なんでなんだろう。
道明寺と、こうなること… あたしは、望んでいたはずなのに。

司は、つくしの涙を見ても… 自分を抑えることが出来ないのだろう… つくしの中を掻き乱し続け、その動きを止めようとはしなかった。

… そして、終幕を迎える。

司の動きが激しくなり、更に奥へと突き上げてくる。
つくしの身体が再び指先から硬直し、背が仰け反ってゆく。

一際高い嬌声が、つくしから発せられた瞬間。
司も彼女の中に、昂揚の全てを放出した。



… 脱力した身体。
司の重みが、つくしにかかる。

先にしっかりと意識を戻したのは、つくしだった。


『… 道明寺、苦しい』

『あ… すまねぇ』


胸元をつくしに押されるようにして、司は慌てて体をずらし、つくしの隣に仰向けに寝転んだ。


『… ふーっ』


大きく息を吐く司を、つくしは横からじっと見つめる。

未だ湿り気を含んでいるのか… 真っ直ぐな黒髪。
切れ長の目元、鼻筋もすっと整ってて。
… さっき触れた唇は、紅潮のためか。
薄く紅をさしたようになってる…。


… あたしは、此の綺麗な男の、妻となったのだ。
此の人を幸せにしたいと思って、結婚を決めた。

それなのに、こうして繋がりを深めた「今」でさえ、
気持ちが乾いているように感じるのは、何故なのだろう。


… 司がつくしの視線に気づく。

今まで見せたこともない、慈愛に満ちた笑顔を、つくしに向けて… 


『… やっと、願いがかなった。
 俺、今… 此の世で一番、幸せな男かもしれねー…』

『……』


瞳が… 再び、滲んでしまう。

つくしは慌てて、司の胸元に抱きついた。
… こうしてしまえば、彼に涙を見られる事はない。

司もまた、つくしの身体を包みこむように優しく抱きしめた。


『… つくし』


消え入るような声で、名前を呼び… 二人そのままで、眠りについた。





※  ああ…えーん  やっぱりH描写は難しい…ガーン  全く校正出来ませんでした笑い泣き 昔UPしたままの文で再UPします。 すいませんあせる