再会 ~4~

 

 

 

 

 

=Rui=

 

 

 

俺の瞳を見つめ、頬に添えた掌をキュッと握り締めながら、
一言一言、はっきりと話す牧野に、
俺は、心も体も奪われっぱなしで。

 

身動ひとつ、出来ずにいた。

 

 

一呼吸おいた、牧野が告げる。

 

 

『類、あなたと、生きて行きたい。』

 

 

…… まただ。

 

… あんたはホント、わかってないね。

 

 

牧野から、俺がどれだけ『幸せ』をもらったか。

 

 

あんたは『これからは』って言うけれど、
あんたに出会ってから、俺は初めて。
 

 

『生きてる』ってこと… 実感して。

 

他人を愛しく想う気持ちも… 知って。

 

 

沢山のモノ、あんたから受けているのに。

 

 

… あんたが自分を卑下すること、何もないんだよ。

 

昔も今も…。

 

 

その上、最後の一言なんて、逆プロポーズじゃん?

 

 

牧野… 眩し過ぎるよ。

 

ホントに俺で、いいの?

 

 

俺は、重ねられた手を解きながら、自分の掌の中に牧野の両手を収めた。

 

もう片方の手で、牧野の肩を抱きかかえ、寄せる。

 

 

牧野の額に、軽くキスして。

 

そのまま、耳元に触れるくらいの距離に唇を寄せて、呟く。

 

 

牧野が瞬間、ビクッと震えた。

 

 

『… 牧野、今日この後、予定ある?』

 

 

真っ赤になりながらクビを振る彼女を、とても愛しく思う。

 

 

このまま俺に、あんたを、受け止めさせて。

 

牧野の全てが、欲しいんだ…。

 

 

その時、俺の携帯電話から、着信を知らせる音が鳴り響いた。

 

牧野がそれに反応し、俺から跳ぶ勢いで、体を離す。

 

 

でも俺は、牧野の手だけは離さない。
 
ぎゅっと、握り締めたまま。

 

 

片方の手で携帯を取り出し、ディスプレイを確認する。

 

 

『田村だ』

 

『え? 田村さん?  秘書の?
 …… そうだよ、やだ、花沢類!!  あなた、仕事中じゃないの?』

 

 

牧野がバタバタと慌てふためくから。
 
携帯を思わず、落としそうになる。

 

 

さっきまで、俺の腕の中で泣いてたのに…

 

ホントにこいつは、変わらない。

 

 

この、喜怒哀楽の、激しさ。

 

 

思わず俺は、笑ってしまう。

 

 

『早く出て!  田村さん、困ってるんだよ!
 きっと!』

 

 

指示まで出してきた。

 

 

笑いが止まらないよ、牧野。

 

 

『笑ってないで、早く!』

 

『はいはい』

 

 

俺は涙目になりながら、携帯をつないだ。

 

 

『類さま、どこにいらっしゃるのですか?
 そろそろお出にならないと、会食のお約束に間に合いませんが。』

 

 

… なんか田村も涙声?
… まぁ、いいや。

 

 

『あぁ、それキャンセル。』

 

『!!』

 

 

田村が電話の向こうで、絶叫してる。

 

目の前では牧野が、金魚が空気を欲しがるように、パクパクしてる。

 

 

なんか、楽しい。

 

 

二人を無視して、俺は言葉を続けた。

 

 

『… 田村、ごめん。  でも… 大切なもの、やっと、見つけたんだ。
 …… 今日は、このまま、二人で… 居させて』

 

 

 

 

 

=Tsukushi=

 

 

 

花沢類が、あたしの手を握りしめたまま、田村さんからの電話に答える。

 

 

… キャンセル?  仕事を!?

 

あたしは唖然としてしまった。

 

 

でも次の一言で、また、あたしの動悸は高鳴り、
花沢類から、離れられなくなる。

 

 

心も、体も…。

 

 

『田村、ごめん。 でも… 大切なもの、やっと、見つけたんだ。
 …… 今日は、このまま、二人で… 居させて』

 

 

田村さんに向けてなのか、あたしに向けてなのか…

 

柔らかな笑みを浮かべながら、
愛おしむような眼で、あたしを見つめて、言うから。

 

 

… あ…、
花沢類のこの表情、あたしは、見たことがある…。

 

 

『好きな子はいる…』

 

 

…… あの時、あなたの告白に、あたしは応えられなかった。
 
あたしの気持ちは、道明寺に向いていたから。

 

 

… でも、今は…?
 
今、あたしが必要としているのは?

 

 

誰…?

 

 

あたしは指を絡めながら、つないだ手を、握りしめた。

 

 

花沢類がそれに気付いて、『にこり』と笑い、握り返す。

 

 

… あたしも、同じ気持ちだよ。

 

ごめんなさい、田村さん。

 

今はもう、離れたくないの。

 

 

電話口の田村さんの声が、諦めたように、小さくなった。

 

事務連絡的なことを2、3会話して、電話が切られる。

 

 

『体調不良につき、だって。  キャンセル理由。』

 

 

携帯を閉じながら、花沢類が、ケラケラと笑う。

 

 

高等部の頃と変わらない、あたしがいつも見たいと思っていた、
少年のような笑顔で。

 

 

ねえ、知ってた?

 

あなたが笑うと、あたしも笑顔になれるんだよ。

 

 

あなたの笑顔が、あたしの心を癒すから・・・。

 

 

あたしは、微笑を返した。

 

 

 

 

 

=Rui=

 

 

 

俺の 『願い』 を聞いた田村は、それ以上は何も追及せず、
キャンセル理由として体調不良と伝える故、
あまり目立つ行動はしないように、との注意、
それと、明日の予定を簡単に伝えてきた。

 

 

そして、最後に一言。

 

 

『類さま、牧野さまを、大切にしてさしあげてください。』 と。

 

感傷に浸ったような声で、言った。

 

 

俺と牧野が、共に過ごしていた月日も、
突然彼女が、俺の前から消えてしまってからの年月も、
俺のことを一番傍で見ていたのが、田村だから。

 

色々思うことがあるのだろう… そう、察せられた。
 
きっと…。

 

 

『…… ああ。  わかった…』

 

 

…ありがとう、田村。

 

 

きっと明日会っても、口に出しては、言えないだろうけど。

 

でも多分、明日の俺を見たら、
この気持ち、自然に田村に伝わると思うよ。

 

 

今でも、気持ちが溢れそうなんだ。

 

 

心配そうに見ている牧野に、笑いを含めて理由を話し、安心させる。

 

 

ホッとした表情を見せ、微笑みを浮かべるのに、俺の方も気が緩んで。

 

繋いでいた手を、グッと引き寄せ、牧野を再び胸元に収めた。

 

 

その弾みでと理由づけて、牧野の額に唇を当てる。

 

 

驚き、騒ぎ始める牧野を無視して、自分の想いに任せ、彼女へキスを送った。

 

 

目元から耳元… そして、頬へ… 吐息と共に、キスをすれば、
 
耳元に寄せた指先に伝わる牧野の脈動が、一段と速くなるのがわかる。

 

 

唇へのキスには、俺の想い、全てをのせて…。

 

 

牧野… あんたに捧げるよ。