わけが判らず、引っ張られた手にたどたどしくついていく。


慌てて2人入り込んだ狭いスペースでヒトラーはブリーフケースから


手際よく顔の皮を取り出す。覆面用だ。


そして2人はうまく老父と孫になりすました。


幸運なことにあちこち空席があり、その1つ、ちょうどいい老婆が眠っている横に座った。


ちょうどアテンダントたちが麻里らを探しながら、


せかせかと通りすぎていく直前だった。



「こんなに手早く覆面ができるなら、どうして最初からやってないのよ」


飛行機を降りた後、麻里が聞くと、


「おれ、こうなっちゃうんだよ」


ヒトラー、いや、速水さんは投げやりに微笑みながら覆面をはいだ。


顔がアレルギーで真っ赤だった。


「あっははははは」


久々に心の奥から笑った少女の声は、廃墟と化したTOKYOに高くこだました。

少女がため息をつく。

離陸したばかりの飛行機のなかで、アテンダントたちがいそいそと働いている。


その幼い顔に不似合いな険しい表情を崩さない少女は、

ふと隣で新聞を大きく広げたビジネスマンを見て驚く。

(こいつ、もしかして、)

「やっとお気付きになったか、お譲ちゃん」


麻里にしか聞こえないような小さな声で、微動だにせずにビジネスマンが言った。


その時。

前方から歩いてきたアテンダントが、麻里たちの4、5列ほど前で止まり、

驚きの表情を隠せずに引き返した。


「けっ、またかよ」

ビジネスマンが、いや、ヒトラーがぼそりと呟く。

「譲ちゃん、ついてきな」