にのあい妄想です。

お気をつけて。


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side S



「二宮くんは、うちの部署には欠かせない人材だよ。だからこれは受け取れない。考え直してくれないか。」


会社のトイレの鏡の前で、繰り返す。


…相葉くんに受け取らないで欲しいと言われた二宮くんの異動届。

もしかしたら週が明けた今日にでも提出されちゃうかもしれないじゃん。


だから。

受け取らない練習をしてみてたりする。


よし、と気合を入れて、トイレから出て、コーヒーを入れて席へと向かう。

いつも割と早く着いてて、始業時間まで、新聞に目を通す。

そんなことをしてる間にみんながやって来くるんだけど。


今日はなんだかそわそわしてしまう。


ここ最近一緒に来てる相葉くんと二宮くんが、別々に来たらどうしよう。

ますます異動届出される確率が上がっちゃうじゃん。


そんなこと考えながら新聞読んでるもんだから、全然頭に入ってきやしない。


おはようございます、と、次々と部下たちがやってくる。

おはよう、と挨拶を返しながら、どきどきする。


まだ、相葉くんと二宮くんは、来ない。


いつもは来てる時間になっても、まだ来ない。

どうしたんだろ?

心配になって、連絡してみようか、とスマホを取り出したら、廊下から賑やかな声が聞こえてきた。


「急げって!」

「だいじょぶだよ、せっかちだなぁ。 前おれはこの時間に来てたんだから。」


相葉くんと二宮くんだ。

…とりあえず一緒に来てるみたいでほっとして、入口の方に目を向けると、まぁなんとも楽しそうなふたりが「「おはようございます」」と声を揃えて挨拶しながら飛び込んできた。


「おはよ」


と挨拶を返すと、相葉くんが俺に向けて満面の笑みでひらひらと手を振った。


おお? なんだ? 嬉しそうに見えっぞ?

手を振り返しながら、そんなふうに思う。


視線を二宮くんの方に移すと、なんとも複雑そうな顔をして、俺の方に近づいてきた。


「…あの、櫻井さん、今五分ほどお時間よろしいですか。」

「ん? あぁ、いいよ。 …じゃあそっちの会議室に。」


二宮くんを伴って、会議室に入ると、二宮くんが

「すみません」と言って頭を下げた。


わわ、なに!? なにが!?


「どうしたのよ」

「先日言った、異動の件、無かったことにしていただけませんか」

「!」


ってことは!

なんか色々上手くいったってことか?


「二宮くんは。うちの部署には欠かせない人材だよ。……考え直してくれて、嬉しいよ。」

「! あ、ありがとうございます…」


心底ほっとした声がして、やっと二宮くんが頭を上げた。


「頑張りますんで、これからもよろしくお願いします」


って言った二宮くん。


俺はねぇ。気がついちゃったじゃん。

そのワイシャツの襟からほんの少しだけ覗く絆創膏に。


「……うん。頑張ってもらわないと困るよ。 俺はね? 仕事さえちゃんとしてくれたら、部下の恋愛にはどうこう言うつもりはないから。 じゃ。 今日もよろしく!」


って言って、先に会議室を出た。


ふふ。

どんな顔してんのかな。


先に会議室から出てきた俺を、心配そうに見つめる相葉くんと目が合う。


「翔ちゃん」

って駆け寄ってくる相葉くんを引き寄せて、その耳に口を近づけると、少し屈んでくれるから、

「あんま目立つとこにキスマーク付けんなよ」


って囁いた。


「!わ、ばれた!?」

なんで言ってくふくふ笑う相葉くんも。

遅れて、耳を赤くして首筋に手をやりながら会議室から出てきた二宮くんも。


幸せそうでよかったな、なんて思ったんだ。



「……。」



けど!!

あのふたり、やったんか!!!!