時おり紹介している経営誌「理念と経営」は、この間、特集企画が面白い。昨日送られてきた6月号も、特集のタイトルが「『つながり』から生まれる新しい価値」となっていた。
特集部分の冒頭では、この特集の意義を述べて、「経営資源の乏しい中小企業にとって、(中略)限界突破の鍵が、『つながり』であり『連携』なのである」と書かれていた。
確かにそうだと思う。これまでも「つながり」というか「連携」という意味では、産学官共同事業といった考え方はずっと存在していた。
しかしあえて特集を組んでアピールする以上、そこには多くの人に向かって〝これを知らせたい〟と思う、何か新しいこと、大きな目的などがあるはずだ。
まずは「人材交流」という形で、大企業とベンチャー企業との「つながり」を仲立ちする事業を行っている、株式会社ローンディールの原田未来氏にインタビューを行っている。
原田氏は、大企業の社員を「武者修行」としてベンチャー企業に出向させる、「企業間レンタル移籍」を事業化させたということだ。
大企業にいる人間からすれば、「自社では得難い創造と変革に必要なマインドセット(思考様式)をベンチャー企業で身に付け」ることができるから、大企業にとっては貴重な「人材育成」の場になる。
一方でベンチャー企業からすれば、「人材不足を補う」ことができる「即戦力」を手に入れることができるし、「成長の起爆剤とする」という意味がある。
こうして大企業とベンチャー企業という、「異なる文化を持つ企業同士がぶつかり合うことで生まれる新しい自己発見」が、お互いにとって可能になるというのだ。
しかもこれが米・欧の企業であれば、個人が転職することで人材が流動化しやすいけれど、日本の企業では、人材の移動がまだまだそう簡単には起こらない。
だからサッカーチームによく見られる、元々の所属に在籍はしているけれど、期限を切って出向するという「レンタル移籍」という方式を採用したのだそうだ。
これなら大企業に勤めている人材も、大企業の持つ良いところを捨てることなく、ベンチャー企業の持つ面白さにも触れることができる。
ベンチャー企業側からすれば、自社に足りないスキルやノウハウを持っている即戦力の人材をとりあえず獲得できる。
しかもレンタル移籍だから、一定期間が経過すればいなくなる。だから、学ぶべきことは在籍中により多く学ぼう、という真剣な姿勢になるだろう。
このように〝外部資源を活用〟して、内部にイノベーション(革新)を起こさせるような手法は、「オープンイノベーション」という呼び方をされることもある。
原田氏は最後に、「異なる強みや価値観を持つ企業同士が連携することによって、弱みを補い新たな強みと価値を生み出」すからこそ、「そこに革新は生まれる」と話されていた。
このインタビューの後に、「つながり」「連携」によって成功している企業の事例を3例紹介していた。1例目は、ある時期業界で断トツのポジションだった企業のケースだった。
その業界自体が大きなイノベーションによって傾いた後、モノづくり技術という自社の強みを生かし、スタートアップ企業と連携することで立て直しを図った。
スタートアップ企業には、優れた新製品のアイデアがある。しかし製造のノウハウが備わっていない。こういうケースは常にありがちである。そこを連携で補った事例だった。
そして3つ目の事例として、宮崎県日南市の「株式会社油津応援団」が取り上げられていた。中小都市によくある、シャッター街化した中心商店街の再生を目指した取組みである。
日南市油津の商店街で、「元スーパーマーケットをリノベーションした」コミュニティスペースを作ったところ、「これが街起こしの起爆剤となった」という事例である。
このコミュニティスペースの場合の「キーワードは『たまり場』」だった。「なかなか利益を生まないので、誰もやろうと」しないけれど、「本当に必要なのは、実はこれ」だったという。
「たまり場ができると、そこに賑わいが生まれ、人が集まり、商店街全体に活気が生まれ」る。「街の人同士のつながりが生まれる」と、「街の外との新しいつながりを生み」出す。
記事には、こうして「他の街の人たちが油津商店街に新たな店を出すようになった」と書かれていた。しかも「IT企業13社が空き店舗に」入ったというのだ。
こうなると、「都会に流出していた若者が街に戻ってくる」状況になってきた。そうは言っても、油津応援団の代表者の黒田泰裕氏は、最後にこう述べていた。
「人口減少が続く時代、元の街には戻れ」ないから、「〝再生〟ではなく、〝新しい街〟をつくると考えるべき」だという。
そのためには「たまり場という発想を土台」にして、「新しい人間とつながる」ことであり、「彼らが新しいおもしろい街をつくる」のだと。
「つながる」という点では、こうした〝つながり〟も、重要な考え方を提示していると思う。企業活動としての「つながり」「連携」もあれば、人と人の「つながり」もある。
今回もまた、「理念と経営」誌の特集の面白さに魅かれてしまった。いつもステマのようになって恐縮だが、この雑誌は書店には並んでいないので、興味があれば見本誌を申し込んでいただければと思う。
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