経営のあるべき姿を考える会社と出会った | がいちのぶろぐ

がいちのぶろぐ

環境問題と経営の接点、中小企業の戦略やマーケティング活動,
観光・伝統産業関連などについて、「がいち」が考えたこと、思ったことを書きとめてゆきます。

一昨日のブログに、経営誌「理念と経営」6月号に掲載されていた、星野佳路氏が言われている「マイクロツーリズム」という問題提起のことを書いた。

 

 

 

この号ではもう一つ〝巻頭言〟で、伊那食品工業という企業のことが紹介されていた。この会社は「寒天」製造ではシェア80%というめずらしい企業である。

 

 

 

その名前の通り本社は長野県伊那市にある。資本金は1億円弱、社員数500人足らず、年商は200億円弱という、いわゆる中堅企業である。

 

「理念と経営」誌の巻頭言では、この企業は社是として、二宮尊徳翁の「道徳なき経済は犯罪である。しかし経済なき道徳は寝言である」という言葉に着想を得たと記されていた。

 

これは面白い会社だと思って、ホームページを読んでみた。すると、「企業理念」が書かれている部分が長い。長いと言っても、実にA4にして6ページ分ほどのボリュームがある。

 

これは面白いとばかりに、その中味をじっくりと読んでみた。現在は最高顧問をされている、事実上の創業者の塚越寛氏が書かれたものらしい。

 

まずは「いい会社」を目指すと言われる。「いい会社」とは「会社をとりまくすべての人々が、日常会話の中で『いい会社だね』と言ってくださる」会社だという。

 

「『いい会社』は自分たちを含め、すべての人々をハッピーに」する。だから、「売り上げや利益の大きさよりも、会社が常に輝きながら永続すること」に努めるという言葉で始まっていた。

 

その中で、「二宮尊徳翁はこんな言葉も残して」いるとして、「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という、巻頭言に紹介されていた言葉が書かれていた。

 

〝なるほど〟と納得した。これに続いて、「急成長には、その後に必ず急激な落ち込みが伴う事を歴史が教えている」とも書かれている。

 

そのためにも、「寒天という一つの素材を研究し続け、掘り下げる」という、経営としての「深耕」を行ってきたという。

 

だからこそ、「成長の数値目標は掲げて」いない。「売り上げや利益の数値は、自然体の年輪経営の結果であり、あえて目標を掲げる必要はない」と言い切っておられる。

 

木の年輪は若木の間は幅が広い、つまり成長が大きい。ただ年を重ねると幅は狭くなるが幹回りが大きくなって、結果的に木の体積はもっと増える。これが「年輪経営」だという。

 

こうした説明は、なるほどの連続である。その上、「常緑の松も必ず葉を」落とすけれど、「古い葉が落ちるときにはすでに新しい松葉が育って」いて「新陳代謝をして」いる。

 

この例え方は上手いなあ、と思う。だから新卒採用などで若い芽を入れて、教育することが重要だと述べられていた。

 

そして、「自然界が休みなく、絶え間なく動いているように、会社というものも、たんに売上高が増えるから忙しいのではなく、売上高には関係のない、多様な行動によって活気づいている」とされる。

 

また事業としては、「年間を通じて安定的に供給ができなかったり、価格が激しく変動したり、何より利益追求のために品質をおろそかにするようでは、供給メーカーとしての存在価値はない」と言われる。

 

寒天製造という、言ってみれば地味な素材供給の会社である。だからこそ、取引先に対する姿勢として、『安定供給・安定価格・安定品質』という当たり前のことに忠実であろうとする姿勢だ。

 

 

(伊那食品工業ホームページより)

 

経営トップが、こういう信念のもとに運営している会社は良い会社だと思う。

 

その上、この会社の製品である寒天の原材料の「天草(てんぐさ)」や「オゴノリ」といった海藻類は、高度成長期の公害によって日本の海が汚れたことで激減したという。

 

 

 

だから、「良質な『海外産』の海藻がどうしても必要」になったけれど、「海外から安く仕入れるためではなく、産地を開拓し育てながら仕入れる『開発輸入』」という考え方で調達している。

 

こうした事業姿勢は、「人間として、また企業にとってもモラル(道徳)は無くてはならない」ことだという考えに基づいている。

 

だから、「社会人にとって、モラル、道徳を高くするということは、あたり前」だし、それがひいては「モラルと連動するのがモラール(志気)」だということになる。

 

そこでこの会社では、『凡事継続』として「当社の一日は毎朝の庭掃除から始まります」と書かれている。全社員が自発的に、毎朝会社の周辺の清掃と取り組んでいるという。

 

 

(伊那食品工業ホームページより)

 

つまり、「『本来あるべき姿』を見失った経営者、会社が多すぎるような気」がするが、「経営にとって『本来あるべき』とは『社員が幸せになるような会社をつくり、それを通じて社会に貢献する』ことだ」と結ばれていた。

 

実に長い文章になっていたが、経営トップが考える『あるべき企業像』は、ここに余すことなく述べられていると思う。

 

現在、長野県伊那市にある本社・工場周辺の庭園は、「かんてんぱぱガーデン」として、「働く社員や地域の人、訪れる人が安心して憩える空間」という想いのもとに作られている。

 

 

(かんてんぱぱガーデン/伊那食品工業ホームページより)

 

そして、「自然豊かなこの環境は社員が毎朝手入れ」をしているということだった。いわば自然あふれる公園と、工場・飲食店・直販店が一体化した施設として運営されている。

 

「理念と経営」誌の巻頭言に紹介されているように、ユニークな企業であることは間違いない。

 

 

 

神戸大学名誉教授の加護野忠男氏が、かつて名著「経営の精神」の文中で示しておられたような〝事業経営の真髄〟が垣間見られる企業だと思った。ちょっと嬉しくなったので、私も紹介してみたくなった。