観光を戦略的に捉える | がいちのぶろぐ

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昨日は「観光マーケティング」について、学会誌に掲載されていた近畿大学の廣田章光氏の論文を基に考えてみた。

 

論文では、観光資源となり得る「地域住民の暮らしぶり」を「観光プラットフォーム=場やシステム」とし、「アクティベータ=間に立つ人」が「地域との共生」を作りだすことで、観光商品としていくことがポイントだ、と述べられていたと思う。

 

 

(廣田氏の論文で事例とされていた飛騨市古川町)

 

一方、私なりの言葉で観光を考えた場合、「仕組み=基盤やシステム」と「仕掛け=魅力づくり」ということが、観光を成り立たせる戦略的な考え方ではないかと思っている。

 

ここで「仕組み」とは、観光客がその場所へ行くための利便性であったり、観光客が心地よく過ごせるための方法であったり、という「基盤やシステム作り」の部分である。

 

また「仕掛け」とは、観光客が行きたくなるような魅力の発見・創造であったり、魅力を生み出す人の力であったり、という「価値の創造」だと思っている。

 

 

(清水寺に近い「二年坂」の景観/京都市東山区)

 

「地域住民との共生」によって生み出される観光のように、『システムと人』の問題と捉えるか、観光地の『基盤やシステムの整備と価値の創造』と捉えるか、という違いはある。

 

この違いは、それほど乗り気ではない「地域住民と共生」する観光を目指すのか、最初から「観光客を誘致」したいと考えている地域かという、問題の立て方の違いかもしれない。

 

廣田氏の考え方に即して言うなら、『規律・統制型』の地域、つまり外部には閉鎖的で、内部での結びつきが強い場合か、外部に向かって開かれている(または、開こうとしている)『共同体型』の地域か、という相違だと言えるかもしれない。

 

 

(廣田氏の論文より)

 

外部に対して閉鎖的であれば、この壁を取り除く作業が前提となるから、まずは壁を取り除く「システムや人」が必要となる。もしこの壁が低ければ、すぐに次のステップに向かって進むことを考える、という相違と言っても良いと思う。

 

けれどどちらの立場であっても、いずれはこうしたことも含めて、戦略的に観光客の誘致を考えることが、ウィルス騒動が収まった後の観光地の生き方だろうと思う。

 

そこで今日は、廣田氏の論考から一歩進めて、観光という事業が持っている目に見えない商品性、つまり「観光というサービス商品」をいかに観光客に買ってもらうかについて考えてみたい。

 

観光客を誘致したいと考えるなら、まずは「提供できる観光サービス商品」の中味を洗い出し、棚卸ししておく必要がある。

 

だがこの「観光というサービス商品」は、一般の商品と違って事前に触れることも、見ることもできない。だからこの「商品」は、観光客という買い手側には具体的に想像しにくい商品という性質を持っている。

 

それを何らかの方法によって具体的なイメージを膨らませるようにすることで、買い手の心を動かすことが必要になる。

 

 

 

もう一方で、観光地は「どんな人たちに来てもらいたいか」ということも考えておく必要がある。提供できる商品に対して、まったく興味を持たない人に呼び掛けても意味がないから。

 

そのためには、まず買い手である観光客を具体的に想定する必要がある。例えば富士急ハイランドの絶叫マシーンを、〝楽しいですよ〟と高齢者に売り込んでも無意味である。

 

 

 

だから想定する観光客の客層に合わせて、その観光客が求めるサービスと提供できるサービスが一致するかどうかを考える、という作業が必要になる。

 

もし一致すると考えたなら、「観光サービス商品」を受け取った時に、観光客はどんな状況になるだろうかという、具体的な実際の場面にまで想像を膨らませてみる必要がある。

 

その時、楽しそうに振る舞ってくれていたり、満足しているように思えたりするのであれば、観光客の立場に立って、出発から「観光サービス商品」と出会い、そして帰って行くまでのシナリオを描いてみる。

 

観光客にとって「観光サービス商品」の中味が具体的に見えるようにすることと、出発から帰るまでのシナリオとをぶつけ合ってみれば、発信すべき情報の中味がどんなものになるべきかがわかる。

 

具体的に想定した観光客が、「観光サービス商品」と出会った時に、どんな表情をし、どんなことを感じ、どんなことを言うのかを、画像なり映像も含めた情報として作り上げる。

 

そうして発信された情報と出会う観光客という買い手は、「観光サービス商品」を手に取って、それが購入に値する商品かどうかを、初めて確かめることができることになる。

 

つまり情報発信によるPRでは、具体的に顧客を想定し、その顧客の使用シーンを思い描いて初めて、顧客からすれば満足できる商品かどうかを知ることができる。

 

特に最近は、自分の〝ツボ〟にはまったと思った観光客は、SNSに画像や映像を掲載することによって、自分自身の体験を拡散してくれる。これほど強い情報発信はない。

 

だからこそ、観光客を誘致したいと考えるなら、具体的な相手の像を想定し、提供できるサービスを受けている観光客の姿を、シナリオに基づいて画像・映像化も含めて発信することが欠かせない。

 

〝誰でもいいから〟来て欲しい、ということはあり得ない。また、〝できない相談〟だという点もはっきりさせないといけない。顧客の〝期待外れ〟ほど恐ろしい状況はない。

 

ラーメン店に入って、和食のフルコースを注文されても困るのだ。できないことはできないし、ある年齢層には喜ばれない観光地ということだって常に起こり得る。

 

こうしたことを明確にするためにも、自分たちが準備できる「仕掛け=価値」と、そのための「仕組み=基盤やシステムの整備」を、自分たちの中ではっきりと確認しておく必要がある。