小さき町 持続可能な 町おこし | がいちのぶろぐ

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昨年末に、「第1回ジャパンSDGsアワード」の表彰式が行われたことは、新聞報道などで概略は知っていた。ただ、また企業向けの環境関連の表彰だろう、くらいに思ったのであまり気に留めていなかった。

 

ところが、今日配信の環境ビジネス・オンライン誌の記事を見て驚いた。最優秀となる内閣総理大臣賞は北海道下川町という自治体が獲得しており、特別賞には東京・江東区立八名川小学校や福岡県北九州市なども名を連ねていた。

 

 

 

SDGsとは、国連が定めた「持続可能な開発のための目標群(Sustainable Development Goals)」を意味している。目標は17の分野にわたっており、これらの中には、環境問題だけでなく貧困からの脱出や教育分野など、幅広く目標が掲げられている。そして国連加盟国は、これらの目標を達成するための努力が求められている。

 

ジャパンSDGsアワードは、このSDGsの中味となるような具体的な取り組みを進めている、自治体、学校、団体及び企業を選んで表彰しようという趣旨の下、国を挙げての表彰制度だった。

 

そして、栄えある大賞に輝いたのが、北海道の北部にある下川町という小さな町だった。所在地は、札幌市から宗谷本線に沿って北へ、旭川市を通り抜けて、さらに稚内方面に行くと名寄市がある。この名寄市から、さらに東へ20kmほど行ったところにある。

 

ということで、下川町の取り組みを調べてみたところ、下川町役場の環境未来都市推進課地方創生戦略室の担当者が作成された、プレゼンテーション資料を見つけることができた。

 

この資料によれば、下川町は人口およそ3,300人で、北の大地の内陸部にあるために、夏の気温は30度を超えることもあるが、冬は逆に氷点下30度にもなるそうだ。町は中心部に人口の大半が集住し、森林面積が町の9割近くを占めているということだった。

 

そこで、下川町では「森林未来都市」という理念を掲げて、「持続可能な地域社会創造」に向けた取り組みを行ってきたのだという。具体的には「森林未来都市」を、「豊かな森林環境に囲まれ、森林で豊かな収入を得、森林で学び、遊び、心身を健康に養い、木に包まれた心豊かな生活を送ることができる町」と定義づけている。

 

 

 

こうして、森林で豊かな収入を得るために、「森林総合産業」化、すなわち「林業の6次産業化」を目指した。「林業(生産)×林産業(加工)×森林バイオマス産業等(需要)=森林総合産業」ということである。

 

 

 

さらに、森林資源によってエネルギーの自給を図るとともに、超高齢化社会への対応として、集落再生モデルの創造とも取り組んできた。「経済×環境×社会の好循環」を生み出して、高齢化率が50%を超えていた集落の再生を目指した結果、生産年齢世代が増加し、新しい「ひと」の流れの創出ができたということだ。

 

こうした活動が早くから認められて、平成232011)年には内閣府から、全国で5つの自治体が選ばれた「環境未来都市」に認定された。そして昨年度からは「SDGs未来都市」へと進化してきた、ということだった。

 

 

 

今では、アジア開発銀行などの国際機関との連携協定や、企業や団体との連携協定、さらに、同じように地域創生を目指している国内の他の自治体と連携して、点としての活動から、面としての取り組みへの流れを作ろうとしている。

 

とりわけ企業や団体とは、「持続可能な地域社会創造に係る包括連携協定」や、「まち・ひと・しごと友好・交流に関する基本協定」を結ぶところまで、協働を進めてきている。

 

そこで、こうした取り組みを行ってきた結論として、下川町では、「SDGsは『持続可能な社会』を実現するための有効なツール」だと位置付けながらも、「小さな自治体単独では困難」だと考えるに至っている。

 

それは、小さな自治体単独では、「知識・技術・ノウハウ・資金」が不足しているから、「SDGsを切り口とした企業・団体とのパートナーシップが重要」だという考え方である。

 

これによって、小さな自治体の持っている資源と、企業や団体が持っている知識・技術・ノウハウ・資金を結び付け、地域の持続可能な発展が可能になるという結論である。

 

素晴らしい取り組みだと思う。農業における6次産業化は、この数年の間に考え方が広く理解されるようになり、今や当たり前ともいえるスローガンになってきた。これと同様に下川町では、林産資源の6次化によって地域経済の活性化を生み出し、さらに新たな生産年齢人口の流入によって、地域の税収にも好循環を生み出すことが示されていた。

 

持続可能性と経済状況とは、切り離せない関係にある。だからこそ、国連のSDGsにおいても貧困の問題をSDGsの一つとして捉えているのである。日本国内でも、地域の経済的な疲弊が、地域の持続を不可能にしつつあるケースは多い。

 

今回は、下川町だけでなく、大阪市に本社がある自然素材を用いた洗剤メーカー「サラヤ」(更家悠介社長)も、第2位に相当する外務大臣賞を獲得した。これは、サラヤがこの間に行ってきた100万人の手洗いプロジェクト」が評価されたことに由っている。

 

 

(サラヤ/シャボグリーン/ヤシノミ100%ハンドソープ)

 

サラヤは東アフリカのウガンダや、東南アジアのカンボジアなどで、「市民と医療施設の2方向から,手洗いを基本とする衛生の向上のための取組を推進」してきたことの結果だと、自社のホームページ上で述べていた。

 

しかも、現地に対して「知識・技術・ノウハウ・資金」を提供し、「現地生産の消毒剤やその使用方法を含めた衛生マニュアルを提供」したり、「持続可能なパーム油類(RSPO認証油)の使用や,アブラヤシ生産地の生物多様性の保全」に取り組んだりと、現地の資源との協働作業を行ってきた。

 

下川町のプレゼンテーションで述べられていた結論は、そのままサラヤにおいても、途上国で実施されていたことになる。

 

こうしたことがもっと広く一般化して、社会全体が変わって行けば良いと思う。こんな表彰制度が、テレビ報道などでは、ほとんど取り上げられることなく過ぎて行くことの方が恐ろしいと思う。

 

年末に行われた表彰式の前後には、相撲界で、あんなことやこんなことが、あったとかなかったとかが大騒動になっていた。だがその蔭で、こんな大事な表彰が行われていた。こちらの方が、よほど大々的に報道すべきテーマだと思った。