〈 奥村先輩2/2 〉
「待ってよ、先輩」
「何だ、お嬢」
「乗る!あたしを乗っけてよ」
あたし、よっぽど凄い顔になっちゃってたのかもしれない。
先輩はゲラゲラ笑って、ヘルメットを差し出した。
「それでこそ俺の相手役だぜ。冒険には危険がつきもんだ……だから、やめられねぇ」
先輩はスリルを楽しんでいるみたい。あたしにはそんな余裕なかったけど、先輩に置いてかれたくなかったんだ。
バイクの後ろに乗って、先輩の背中にしがみつきながら見た、地元の景色。
夕陽に染まった街並みと、何かが焦げたような匂いがする坂道の農道を風のように走った。
「最高だろ、ジュリエット!」
風の音に先輩のよく通る声が混じる。
あたしは見慣れているはずの景色を懐かしい思いで眺めながら、叫んだ。
「ええ、最高だわ、ロミオ様」
先輩の背中が揺れてる。笑ってるのかな。
いけない事してるって分かってる。
でも、あたし、もう止められないよ。
先輩、好き――。
いくら背中にくっついてても文句言われないこの特等席。
日が暮れてしまったらきっとこの時間は終わる。
あたしは徐々に沈みゆく夕陽をじっと睨み付けた。
念力で止められないかな、とか思いながら。
この日、念願のジュリエット役に選ばれたあたし。
やがて日も落ちて、暗くなった丘の上で、憧れの奥村先輩とキスをした。
全ては、この闇が隠してくれる。

