「だから、これをこうすればいいって言いましたよね」
「これかしら?」
「だから、これです。これで出来てます」
「え、じゃあこれは?」
「だから、これはこれって言いましたよね。自分でやりましたよね?はぁー」
携帯電話会社の窓口で、若い子ちゃんの店員と、お客のお祖母様の会話。
若い子ちゃんの店員は徐々に、あからさまな嫌悪を示しながらの対応をしていた。
会話の内容から察するにお祖母様は同じことを何度も繰り返し聞いているような感じだった。そして、話が進まないことに若い子ちゃんの店員はイラついていた。
「ちょっと待っててください」
若い子ちゃんの店員は席を外し、お祖母様はぽつんと椅子に座ったまま待っていた。
たぶん10分以上。
お祖母様は他の店員に声を掛けるが他の男の店員は「あー、もう少しお待ち下さいねー」というか無視するかの二択だった。
そしてその十数分後お祖母様はまた男の店員に聞いた。
「あの、あの若い店員さん、どこへ行っちゃったのかしら?待っててって言われたまま帰ってこないんです」
すると男の店員が言った。
「あー、あの子、勤務時間が過ぎたので帰りました」
お祖母様は、この空いた行間と同じくらい時間、沈黙したがやがて
「私が質問しすぎたから帰っちゃったのかしら?」と聞いた。
「いえ、そんなわけないじゃないですか、そんなことないですよ。もともと時間だったんです。帰ると伝えていると言ってましたよ」
と男の店員は答えた。
それはない。
僕はなんせ耳を傾けていたんだから。
そしてお祖母様はまた放っておかれた。
誰も彼女の助けには入らない。十数分後、男の店員がやっと彼女の話を聞いた。
「あー、それはもう終わってます。出来てます。大丈夫です」
そう言ってまたどこかへ行った。
お祖母様は荷物をまとめて帰っていった。
悲しかったが、僕は何もしなかった。
自分と奥さんとお義母さんの手続きの助けをしていて僕は何もしなかった。
もしかしたら、そのお祖母様は常連で、毎回同じ症状なのかもしれない。だとしたらどうだろう?だとしたら、あの態度の悪さや放置は許容出来るのだろうか?
そうであっても労りの心くらい持っていてほしいと感じた。
僕は何もしなかったが。