今回は、メトロノーム・マガジン1933年10月号に掲載されたカール・クレス氏のインタビュー記事をご紹介いたします。

Who's Who Among Guitarists - This Time It's Carl Kress - by Frank Victor

(Metronome Magazine / October, 1933)

ギタリスト紳士録　- カール・クレス -

インタビュー・文　　フランク・ビクター

私が毎回様々なギタリスト達を紹介するこのコーナーにおいて、
今回、特に大きな喜びを持って迎えるのは、このアメリカ、そして海の向こうのイギリスのギタリストたちの間で今、最も話題にされているギタリストである。　

この青年は、独自にチューニングして音域を拡げたプレクトラム・ギターでの新しい奏法を生み出し、さらにその新しい奏法を駆使して素晴らしい演奏を創り出し続けている人物なのだ。

かつて西海岸からやってきたエディ・ラングが6弦ギターをダンスバンドで使い始めた時、その演奏を耳にした国中のバンジョー奏者たちは大きな衝撃を受けた。
そしてすぐにギター奏者の需要が増える事となったが、バンジョーをすっかりマスターしてしまっていた者達にとって6弦ギターのチューニングでの演奏を修得する事はなかなか難しく、すんなりとギタリストへ転向出来る者は決して多くはなかったのである。

そこで4弦のテナー・ギターが6弦ギターの代わりとして使われることになり、暫くの間はこのテナー・ギターを使った試みが行なわれたが、結局の所バンドリーダーたちはそれでは役不足と思うようになり、その結果やはり6弦のギターを、または少なくとも4弦ギターとは違ったものを求めるようになっていった。

- ことのはじまり -

このころから、テナー・ギターに独自のチューニングを施したカール・クレスの存在に注目が集まり始める。
彼はやがて、馴染みのその手法をさらに発展させプレクトラム・ギターに導入する事となる。
カールはA弦をオクターブ下げ、C弦はオクターブ上に、そしてD弦はメロデイ用の弦としている。(訳注:原文のまま)
この独自のチューニングは結果的にカールの個性的な演奏スタイルを創りあげることになり、それは6弦ギターの王様エディ・ラングのものとは全くかけ離れたものとなったのである。

ちなみに、お互いを称讃し合うこの二人の芸術家が一緒に行ったレコーディングは、ギタリストたちのみならず音楽業界全体でも話題になっており、それらのレコードは今や名作として評価されている。

- 少しだけ掘り下げて -　

それでは、ここで彼のプライベートに踏み込んでみようと思う。
　
　彼は身長5フィート7インチ、体重は150ポンド、楽しげに輝く青い目に淡いブロンドの髪と明晰な頭脳を表す広い額を持つ。
彼の知的な雰囲気は一般的にミュージシャンにはあまり見られないもので、
同時に若干25才の彼は、才気煥発かつ素晴らしいユーモアの持ち主でもある。

　これは私がカールと話していた時の事だが、側を通りかかったジミー・ドーシーが「フランク、カールの大きな鼻について書くのも忘れずに」と言うや否や、すかさずカールは「誰もが皆、そんなことハナっから知ってるよ」とやりかえし、その見事な切り返しに感心した私は皆さんにハナさない訳にはいかなくなった次第である。

閑話休題。

　クレス氏はニューヨークにある閑静なアパートメント・ホテル・ハウス『ロンドン・テラス』で暮らしており、その部屋は、たとえ彼が夜中の2時に帰宅してからでも日課としている3時間の練習を行う事が出来るように防音を施してある。
『ロンドン・テラス』にある大きなプールを利用して、そこで泳いだり寛いだりするのが好きな彼に、生い立ちや幼少時代のことを色々と尋ねてみた。
ニューアークのマディソン小学校と中学校を卒業後は、サウスサイド高校に進学。
高校在学中はドイツ語の授業しかとらない事に決めたそうだが、おわかりのように彼の両親は家では主にドイツ語を使っていたので、それは彼にとって何ら難しい事ではなく、最終的にはその言語についてはマスターしてしまったとのこと。
当時はフットボールと野球が大好きだったが学校のチームに参加したりすることはしなかったらしい。

- ピアノを2年間学ぶ -

　「その頃、ピアノを2年間学んだよ」と彼は続ける。
「でも、どういうわけかピアノという楽器にはあまり興味が持てなくて、真剣に練習したりする事はなかったんだ。
僕たちは皆、どうしてそれぞれ楽器や女性やその他の好みが違うものなのか考えてみたら不思議だよね。まあ、でもそれで良いんだな。で、15歳の時にどこからか手に入れたバンジョー・ウクレレで練習を始めたんだ。
それからわりとすぐに子供たちで結成したバンドに参加して、父が誕生日プレゼントだと言って12ドルのバンジョーを買ってくれたんだよ。
僕はバンジョーのレッスンは受けなかったけれど、本能的にバンジョーのA弦の音がどうしても好きになれなかった。
結局はそれがきっかけで、僕が数年前から始めた独自のチューニングを用いることになった訳なんだけれどね。」

彼は続けます。
　「子供たちのバンドの話に戻るけど、ある日その中の一人の友人が僕に尋ねたんだ。彼がやっている演奏の仕事に僕が加われるかどうか、実力のほどを試してみないかってね。
そこで彼に聴かせたんだよ、僕がたった1曲だけ知っている "Out of a Million You're the Only One" をね。
まあ、その曲については問題なくそこそこ良い感じの演奏が出来た。
次に彼は僕の読譜の能力について試すために、僕が知らない曲の譜面を出してきたんだけれど、残念ながら、その当時の僕の、とても限られた読譜力では演奏を始める事すら出来なかったんだ。
僕たちは顔を見合わせて大笑いしたよ。
最終的には、なんとか夏の間ずっとニュージャージーの Avon Inn での演奏の仕事に参加する事が出来たけどね。
僕はその機会を精一杯活かして、その期間はずっと特に読譜についてはハードな練習を重ねたよ。
その後、僕は、同じニュージャージーにある Blue Hill Plantation での仕事を手に入れた。」

　
- ちょっとした誤解 -

　「その Blue Hill Plantation で8カ月ほど過ごした頃、バンドリーダーとの間に起こったちょっとした誤解のせいで僕はバンドを離れる事になった。
それで、ニューヨークに移って来て Randevous での仕事を手に入れたのだけれど、1週間働いたのにギャラを全く払ってくれなくてね。
だからそこはすぐに辞めたよ。そこで、以前仕事をしていた Blue Hill Plantation に戻れないか連絡してみたのだけれどダメだった。
そうこうするうちに、Rendevous での仕事で一緒だったレニー・ヘイトン (Lenny Hayton)がレコーディングに呼んでくれるようになったんだ。
その後、トミー&ジミー・ドーシーとも知り合って、彼らが Roosvelt Hotel で演奏していた Eddie Elkins を紹介してくれた。
Eddie Elkins のバンドで演奏している時期に、レッド・ニコルズ&ファイブ・ペニーズにも参加したんだ。
　ちょうどその頃、入れ込んでいた女性と上手くいかなくなったこともあって、N.Y.を離れたくてニコルズからの西海岸での仕事への誘いを受けたんだよね。
西海岸では、Strand Theater でのナット・シルクレット (Nat Shilkret)のバンドと Club Matador でのレッド・ニコルズ(Red Nicols)のバンドのかけもちをしていた。ポール・ホワイトマンのレコーディングにも参加したよ。」

　ニューヨークに戻った後は、結局、再びニュージャージーに帰ってきたんだ。
この時は Monclair (訳注: 正しくは Montclair と思われる)で仕事をしていた。
そこにいた時は Lopez (訳注: Vincent Lopez のことと思われる)からの誘いがあって、N.Y.に来てほしいということだったけれども、せっかく手に入れている仕事をわざわざ辞めてまでニューヨークに行く事はどうしてもしたくなくてね、結局その申し出は断わったよ。で、その次は Springlake で演奏の仕事をした。
　

- 仕事を交換 -

　「Springlake で僕は週に80ドルもらっていたのだけれど、Avon Inn で週に20ドル稼いでいた友人のバンジョー奏者に仕事を交換する話を持ちかけたんだ。
彼は喜んで即座にOKしたよ。おかげで、僕は再びハッピーになれたって訳さ。」
(訳注: バンドにおける演奏の内容がよほど退屈なものだったと思われる)

「その後、僕はＷＡＢＣ放送局のフレディ・リッチ楽団に参加した。
その時の出来事なのだけれど、よりによってこの僕が全米中に流れる放送の中で歌うはめになったんだよ！
スタジオに来ていなきゃならない歌手が姿を見せなかったんだ。
バンドや放送局の連中は僕に唄うように要求し、仕方なく僕はボーカリストの席で「スウィート・スー」を唄ったのさ。だけれども、きっとそんなに上手くは歌えていなかったんじゃないかなぁ。
なぜなら、それ以来誰も僕に歌えと言わなくなったからね！」

「そのフレディ・リッチ楽団の後は、フリーランスで仕事をするようになって今に至るというわけだね。
これまでに関わったの様々なレコーディングを振り返ってみて、一番貢献できたと思っていて、いつも聴くたびに刺激を受ける録音は、レッド・マッケンジーが歌った『ジャスト・フレンズ』かな。

これまでに、僕はジョー・ヴェヌーティーやボスウェル・シスターズのためにもギターを弾いたよ。
他にも、ポール・ホワイトマン楽団の日曜コンサートでの演奏が、僕の名前を世に広めるきっかけになったんだよねぇ。」

「僕はこれまでの人生の中で、たった一度だけ、ラジオでの生放送に出演し損なった事があるんだ。
その番組は『ビクター・ラジオ・プログラム』だった。
で、その理由なんだけど、ただ単に寝過ごしてしまってねえ。
もう自分自身にあきれてしまって何か他に良い言い訳を思いつく事もできなかったなぁ。
ちょうど『チェスタフィールド・アワー』の放送時間帯だったね。」

-　さらに彼に近づいて -

　彼の家族は、カールが奏でる音楽を愛し、いつも彼が出演する放送に耳を傾けている。
カール自身はビング・クロスビー、ミルドレッド・ベイリー、コニー・ボスウェルを愛聴し常に刺激を受けている。
時々は、彼の熱烈なファンからの手紙を受け取る事もあるようだ。
彼のこれまでの収入のほとんどは自動車に注ぎ込まれてきた。
ここ9年間のあいだに、9台の車を購入しているのである。
彼の趣味のひとつはゴルフで、あとは乗馬。
馬の背に跨がって広大な道を走るのがたまらないそうである。
大の犬好きで、数年前にフォックステリアを飼い始めた。
愛犬(雄)の名前は "Schatze" ドイツ語で「宝物」の意味とのこと。
彼は、時刻や場所に関係なく一日3時間の練習を行う事を自分に課している。
練習内容にはセゴビアのものをかなり多く取り入れている。

この業界での彼の成功が何によるものかは判らない。
しかし、この謙虚なカール・クレスについて私に言えるのは、
彼の才能は自然からの賜り物であるということだ。

6弦ギターに特殊なチューニングを施している彼の奏法では、
もっぱら人差し指でのバレーフォームを多用する。
　

※アメーバブログへの移行に伴い、タイトル(文字数の制限がある為)および本文・リンク等に変更を加えています。(2020/10/27)