秋丸機関は単純に「生産力」だけで各国の抗戦能力を分析するのではなく、それ以外の部分、主に「時間」と「距離」についても重要視していました。

 

最大生産力を発揮するまでの「時間」と、生産した軍需物資を戦場まで輸送する「距離」が重要なのです。

 

そうすると、戦争は単純に生産力だけでは決まらない、という結論が導き出されてきます。

 

この秋丸機関が計算した経済抗戦力の細かい計算は複雑なのでここでは省略して結論だけを説明します。

 

もし、もっと深く知りたい方は文末の参考文献をご参照下さい。

 

もしくは秋丸機関が作成した英米の経済抗戦力の調査報告書である「英米合作経済抗戦力調査(1)(2)」の原本が東京大学経済学図書館に保存されています。

 

デジタルアーカイブでも公開されてるのでインターネットで見る事が出来ます。

こちらもご参照するとよく分かると思います。

 

当時の日本政府高官はイギリスとアメリカを一体として、抗戦力調査を行っていました。

 

なので、イギリスの不足分をアメリカが補い、またアメリカの不足分をイギリスが補うという前提で抗戦力調査を行っています。

 

 

当時の軍事力の1番大きな決め手は経済力、すなわち生産力であると言えます。

 

その国の国民が最低限度の生活を維持しつつ、どれだけ多くの空母・戦闘機・石油などの軍事物資を供給できるかが、戦力分析をする上で基本になります。

 

まずイギリスの生産力をみてみます。

 

秋丸機関は、イギリスが1939年から始まる第二次世界大戦において、主にドイツ、日本を相手として戦う場合に必要な戦費をシュミレーションしました。

 

そうすると生産力(主に軍需向け物資供給量)で毎年約11億5千万ポンド(57億5千万ドル)不足すると計算されます。

 

もちろんこの計算には戦争によって動員される兵力数や、無業者・失業者を労働者として雇用し、外国からの輸入超過分を考慮にいれての数字です。

 

イギリスの産業界がほぼフル稼働した状態でもこれだけの額の軍需物資が不足するのです。

 

ではこの物資の不足分はどうやって補うのでしょうか?

 

それはアメリカからの補給によります。

アメリカから軍需品を完成品として輸入して補うのです。

 

ではアメリカの生産力はどの位になるのでしょうか?

 

1930年代後半のアメリカは世界大恐慌からまだ完全に立ち直っているわけではありませんでした。

 

なので、失業者や稼働していない設備がかなりありました。

 

もし、アメリカが参戦した場合、自国の戦費を失業者や遊休設備を活用する事によって十分まかなえる計算になります。

 

こちらの計算も戦争によって動員される兵力数や、無業者・失業者を労働者として雇用し、外国からの輸入超過分を考慮にいれての数字です。

 

そして、その上さらに軍需生産において約510万人の労働力の余力をもち、これを生産力に転化すると年間138億ドルに上る軍需資材の供給余力を持ちます。

 

つまり英国の不足物資額である毎年約11億5千万ポンド(57億5千万ドル)を十分補給出来る力がアメリカにはあるのです。

 

そして英国以外にも約80億ドルの軍需資材を供給する事が出来ます。

つまりソビエト、中国に軍事支援するだけの力がアメリカにはあるのです。

 

実際に既にドイツや日本と交戦状態にあったソビエト、中国への軍事支援はインド洋からのインド・ビルマ、ルートを使って行っていました。

 

当時、1937年時点での日本の年間生産額は50億ドルです。

 

単純に生産能力だけを比較したら、アメリカが圧倒的です。

アメリカが連合国側にたって参戦したらとてつもなく強力です。

 

まともに戦って勝てる相手ではありません。

 

しかし、このアメリカの生産力は最大値を示しているに過ぎません。

アメリカが即時総力戦体制に入った状態での生産力なのです。

 

ご存じの通り、アメリカ国民のほとんどが戦争に反対です。

なので直ぐにこれだけの生産体制を整える事は不可能です。

 

アメリカ国民がそもそも戦争に協力しないからです。

 

なので総力戦体制を整えるのに、日本がマレー半島で英米と交戦状態になってから最低1年以上の時間がかかると考えられました。

 

この1年の「時間」が日本にとって非常に重要なのですが、実際の歴史では真珠湾攻撃によって、アメリカは即時総力戦体制を整える事に成功してしまいました。

 

しかし、秋丸機関の研究ではこの真珠湾攻撃は想定されていないので、1年以内に日本が講和に持っていけば、戦争を終結させる事が出来ると考えました。

 

では、開戦から1年以内に日本は何をすべきなのでしょうか?

 

もちろんハワイやミッドウェー攻撃ではありません。

 

英米からの輸入に頼らない自給自足圏をまず確立する事です。

 

そして、それだけでは講和にもっていけません。

 

ここで重要なのは主戦場をどこに持ってくるかです。

当時の輸送能力から、戦力は「距離」の二乗に反比例すると言われていました。

 

つまり、本国から遠い所で戦うほど、不利になるのです。

いかに強大なアメリカでも、本国から遠い場所での戦闘になれば、条件によっては不利になるのです。

 

そのため、主戦場をインド洋において、連合国の海上輸送ルートを遮断する、という戦略が重要になってくるのです。

 

 

※参考文献