ショーウィンドウ | 猫の島調査報告書

猫の島調査報告書

月夜にささやかな酒宴 ことのは積み上げ十年目

という訳で、TFTで野性時代をゲットしました。

「ショーウィンドウを砕く」/有栖川有栖。

事前情報にあったように可成良いです。
完全倒叙ではなく、犯人視点ではありますが現在進行形の時系列順でした。


以下、ネタバレ有り感想。






■事件以外の部分
ご時世的に一般人にも馴染みが出てきたサイコパス診断がちょろっと枕で触れられています。
が、犯人自体はそこまでは変なひとでもなく、動機も作品序盤から刷り込みを掛けてくるので「朱色の研究」のように読者の中で物議を醸すことは無いと思います。まぁ無理心中の亜種かな。
(個人的には「朱色~」の動機というか発端は、作品的にアリだと考えていますが)
因みに私の回答は、1問目→社長と同じく位置確認、2問目→目撃されたから、でした。車もらっても通報されたら意味無い。


■事件本編について
犯人はどうも火村が居なければ完全犯罪だったと思いたいようですが、(煽り文にもある)
普通に調査してたら簡単にバレる案件なのでは、と思います。


■犯人視点の描写。
船曳 →いかにも刑事風
鮫島 →眼鏡が似合う渋めの中年刑事
森下 →若い優男刑事 
高柳 →女性刑事 もっとkwsk!
有栖 →自由業らしい雰囲気
    第一印象は人畜無害w
火村 →刑事らしからぬ白いジャケット
    何かの勝負師を連想させるクールな目

一先ず森下くんが普通の刑事として認識されているようで良かったなけいいち、と思いつつ、有栖の『人畜無害』に大笑い。
毎回犯人視点からの有栖の人の好さブレない。
府警に求められている立ち位置が、犯人の油断を誘うための囮なのかと邪推したくなりますwww

終盤に行くにつれ、火村の言われっぷりがどんどんと非人間的に。
これも犯人視点ものだと常に化け物だなんだと言われてるのですが、今作の犯人の場合は特に、犯人の思考が「俺の考えた火村」像に仮託されていっているなーと。
結局、火村だったらこう考えるだろう、と思っているのは犯人自身がそう考えているからなんですよね。火村が何も言っていないのに、「その日の内にやればよかったのさ」と言うであろうと思ってしまっているのは。


■全体感想
今回は真面目に面白かったです。
多分ここ5年くらいの中だったらベスト3に入れます。
短編に有りがちな物足りなさ・唐突な締め・浮いた描写が殆ど無いこと。また犯人視点だけで進むためにテンションの一貫性が保たれていているのも、読みやすい理由のひとつかと。
なんとなく、トリックや解決のカギに小物を使っていた方が、スッキリして合ってるのではないかという疑惑が出ました。疑惑ってのもおかしいですかね? 推測?
まったくの個人的な好みの問題ではありますが。


■余談(?)
喫煙者じゃないのでキャメルがそんなに入手困難になっているとは知りませんでした。10年くらい前は、その辺の自販で買っていたし。
確かに最近コンビニには有ったり無かったりしてますね。
そして「双頭の悪魔」のビデオで、江神さん(香川照之氏)がキャメルを持っていて大写しになる謎だけは、今も解明されないまま(笑)


■今後の話
というか「暗い宿」の広告が載ってて何でやねんとおもったのですが、よくよく思い出してみれば作家有栖シリーズの角川書店での最近作って「暗い宿」なんですね。(ビーンズ文庫の再編集除く)
秋頃の短編集ですが、もし角川刊行ならば既に今年3短編が雑誌掲載済なので、配分ペース上この作品も収録されるでしょう。