「消えた山高帽子 チャールズ・ワーグマンの事件簿」/翔田寛/創元推理文庫。
- 消えた山高帽子―チャールズ・ワーグマンの事件簿 (創元推理文庫)/翔田 寛
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時は明治のあけそめ。
所は横浜異人居留地を中心に、異文化交流の中に起こるミステリーの数々。
主人公・チャールズ・ワーグマンは実在のイギリス人。
明治維新の前より日本に10年から滞在するワーグマンは、日本人の妻を娶り日本家屋に住み、日本語も堪能な新聞記者でした。
『副音声でお届けしています』状態がまったく気にならなかった、読みやすい作品。
心温まる連作でした。
1 幽霊の謎。
ワーグマンの友人ウィリスの所に、浪人風の若者が「仇討ちをしてきた」と駆け込みます。
その頃居留地で流行始めた「幽霊」の噂話。
巻きこまれながらも、この2つになぜか関連を求めるワーグマン。
仇討ちってまだ有ったんかい?というツッコミは正しかった。かなりキーポイントでした。
開国! 新時代! という波が一気に被ってくると、様々な弊害がでるわけです。
あんまり関係ないけど、江戸後期は戦争でなくとも物騒で、江戸近郊では試し斬りなんて珍しくないとの記録もあったようです。
2 金貸しシャイロック ハラキリの謎。
赤毛ときたら緑色の瞳、できれば癖っ毛でそばかす付き。色は白いものと決まっている。
肌の色は一般アングロサクソンで変わらないと思うんですよ。赤毛との対比が肌色をより白く見せてるんじゃないかと。
そんな青年が登場の2話目でございます。
そして生糸取引で富裕な老人。極度のケチである老人は、なぜかその日に限って多額のチップを払う。
奇妙な死に様。がポイントなのですが。
分かりやすいんですよねー。なんとなく消化不良の内に読了。
今の金融情勢で読むと理解しやすいかもですね。
3 消えた山高帽子の謎。
芝居会場で受付に預けた帽子。見終わって受け取ろうとすると、なぜか見当たらない。
受付の管理は若い女性達、2人とも長時間持ち場を離れていないのに。
帽子、3個も消えるんです。
「妹背山婦女庭訓」と「ロミオとジュリエット」話で、スタンダードな謎です。
ミステリ的な謎はHOWとWHEREと更に言うならWHY?
動機ではなく、何故そうなったのかという理由。
帽子なんて紳士な方々にはなくてはならぬもの。
上着なしのワイシャツが下着姿と同義なら、正装にシルクハットなしはズラ無しと同じようなもんでしょうか。
主役であり主題であるのは升蔵という役者。小柄な歌舞伎役者。新しいもの好きな生粋の役者がまさに生き生きと登場。
西欧のチャリティー演劇はすごい文化の筈ですが、精神はともかく芝居の出来はあくまで素人。プロとの違いという面も歯に衣着せず言い切っています。
さて、この辺で
もしや一々シェークスピア絡みか、と思ったが、そもそも19世紀のイギリス人が出てきてシェークスピアが絡まない訳がない。
4 女工哀史、その裏に。
糸屋の奉公人には種違いのハーフの姉がいた。
兄弟ふたりきりだがそれぞれ職を得て、それなりに幸せに暮らしているはずだった。
ところが或る日、姉が心を患い、家に帰ってきたという。
居留地の「お奉行様」ことベンスン氏の若かりしお姿が。
庶民のささやかな生活が主題。
糸車というと「安達が原」。女や母の象徴ですな。姉には幸せになってほしい、何時の時代も弟はそう思います。
5 クリスマスの奇跡
教会という密室で発見されたのは、天使のようなフランス人少年と整いすぎた顔立ちの日本人少年の2人の死体。
2人はフランス人の少年の妹を巡って諍いを起こしていたと叔父の司祭は語る。
おりしも、クリスマス直前。
聖具を売りさばく怪しげな骨董屋も出没し……
ベンソン氏がパワフルで良かったです。こういう警察なら別にいいんですよ。無闇に他人様のお庭に入らないからね。
フランス人とアメリカ人は仲が悪いといいますが、カトリックとプロテスタントだからか、非常に納得のいく理不尽さ。
ミステリー的には、どうなのこれ? と思わずにいられませんが、
わかっていても
最後の1行が真髄です。
まとめ。
全体とおして、狭義のミステリーを楽しむ本ではなく、日常の謎が組み合わさっている、その文化的社会的交流(混乱)を楽しむ本でした。
※今回の副題っぽいのは実物じゃなくて内容をしるしたかったので自作です。