(プレジデントオンライン)
PRESIDENT 2011年1月17日号 掲載
■欲しいのではなく捨てたい願望の表れ
今さらいうまでもないことだが、ネット通販は簡単で便利である。実際に店を巡らなくても、ウインドーショッピングができるし、クリックするだけでいろいろなモノが買える。ポイントサービスも充実しており、お得感も味わえる。画面上で「ようこそ」と迎えられ、「購入する」をクリックすると「ありがとうございました」と感謝され、後日、自宅で品物を受け取る。この一連の行為がクセになると、もはや本当にモノが欲しいのではなく、カチカチとクリックしたくてクリックするような事態に陥ってしまうのである。
そもそもネット通販は五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の拒絶ともいえる。店員とのやりとりが煩わしい、あっちこっちに移動するのが億劫、品物を吟味するのが面倒くさいということから五感を無意識のうちにシャットダウンしているのだ。ある意味、ネット通販とは「買う」というより何かを「切り捨てる」行為。欲しいのではなく捨てたい。五感もお金も、しまいには夫も捨ててしまいたいという願望がそこには隠されているのである。
それを阻止するには五感の回復しかない。妻が五感を ナイキ SB 絶するのは夫の鈍感さにうんざりした結果でもあるので、我々は自ら率先して五感の起死回生を図るしかないのである。
そのためにはやはり、一緒に買い物に行くのが一番だろう。デパートなどに出かけて、買い物本来の喜びを取り戻す。「買い物は楽しい!」と思い出してもらうのである。その際、いやいやついていくというような態度は決して見せてはならない。楽しい気分を先導すべく五感をフルに働かせて買い物会話を弾ませるのである。例えば、妻が目に留めた商品について、すかさず「いい色だね」「試着してみたら」などと発言する。何かを食べたら「おいしいね」「また来ようね」という具合に、味はもちろんのこと次のショッピングをさりげなく誘うのだ。
そして「プレゼント」も重要なキーワードである。ネット通販の魅力は贈り物のように品物が届くこと。日頃自分宛の郵便物があまりない主婦などにとっては、箱に「○○様」と名前が記されているだけでうれしいのかもしれない。そして開けてビックリ玉手箱。開けるときのドキドキ感がクセになり、ドキドキするために時に失敗すら必要になり、失敗してもまた注文してしまうのである。
だからこそ夫から妻へのプレゼント。一緒に買い物に出かけた際に、買った商品を箱に入れ、リボンをつけてもらって、「これ、プレゼント」と彼女に手渡すだけでもよいと思う。中身がわかっていても「贈られる」ことが大切なのである。下手に気合を入れて自分なりにモノを選んだりすると、自分はやるべきことはやったというひとりよがりの達成感を見透かされて失敗しがちである。かといって「何が欲しいの?」と聞いてもいけない。欲しいというから買ってあげた、では恩着せがましい。
では、どうすればよいのか?
耳を澄ますのである。妻の日頃の発言、さりげない会話の中に出てくる言葉を聞き逃さないこと。そこには必ず彼女の本当に欲しいモノのヒントがある。妻はそうしてサインを送り、夫の反応を試しているのである。
以上、まるで女性心理を知り尽くしたかのように縷々述べたが、すべて、「ハマる気持ちはよくわかる」と明言する妻に教えてもらったことである。つまり日頃私が怠っていることばかりで、やはり妻に対して慢心は禁物。常に理解しようとする姿勢が肝要なのだとあらためて反省した次第である。
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ノンフィクション作家高橋秀実
1961年、神奈川県生まれ。『やせれば美人』『おすもうさん』『趣味は何ですか?』など独自の取材スタイルで書き上げた著書多数。
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(ノンフィクション作家 高橋秀実)