PRESIDENT Online スペシャル 掲載
■気持ちよく酔わせてくれたジン「バーネット」
ワールドカップ関連試合のほか、日本のサッカー界を全面的に支援しているKIRIN。そのロゴを眼にすると、私は暗示にかかったように、
「ジンでも飲まなきゃ、やってられないぜ」
棚に置いてある「ボンベイ?サファイア」に食指をのばしてしまう。
ジンとのなれ初めは社会人と名乗るもおこがましい1978年頃。仕事をなかなか覚えられず、毎日叱られてばかりで暗欝な面持ちの私を見かねたのか友人が誘ってくれ、たまたま入った店で彼が、
「ジンを飲もうよ」
と、注文。そこのバーテンダーに勧められたのが、「バーネット」であった。
オンザロックのグラスを口元へ運べば、つんと鋭く刺激する香木系のスパイシーなアロマ。学生の頃からカレー作りにはこだわりがあり、朝岡香辛料の実験に使うような容器に詰められたスパイスを10種類くらい食器棚に並べて悦に入っていたものだ。
「キャラウェイ、コリアンダー、レモンあと何だろう。いろんなスパイスの香りがする」
「ごたくはいいから、飲めば」
氷に冷やされた液体には強烈なアルコールの刺激が 高品質モンスター ヘッドホン って、同時にさわやかな香辛料の風味がひろがり、たちまち陶然となった。
「初めてだけど、いいね、ジン」
「安いし」
ウィスキーなどに比べると、半額以下の料金で、ろくな稼ぎもない青二才には願ったり叶ったり。感激した私は翌日さっそく酒屋で「バーネット」を求めた。760mlで980円。キリン?シーグラム社が日本国内でライセンス生産しているため、他社より10ml多くて、最安値を実現できた、と店主が解説してくれた。
ゲルピンの若造を気持ちよく酔わせ、憂さを忘れさせてくれたのが、KIRIN「バーネット」ジンなのであった。
■そもそもジンは薬として開発された
ジンの起源は1660年、オランダのライデン大学医学教授フランシスクス?シルヴィウスが開発した「ジュニエーブル」とされる。これは、アルコールにジュニパー?ベリー(セイヨウネズの実)を漬け、再蒸留したもので、解熱や利尿剤すなわちクスリとして薬局で販売されていたそうだ。
シルヴィウスは、ハーヴィー(英国の医師)が発表した血液循環説(1628年)の支持者であったが、そのハーヴィーは痛風に悩まされていたことで知られる。シルヴィウスの着眼したジュニパー?ベリーは、当時、痛風に効くとの通説があり、現在でもそれを信じている向きはある。ひょっとすると、シルヴィウスは痛風薬の調合に挑戦したのではあるまいか、とは素人の勝手な妄想であるが、根拠はなきにしもあらず。
なにしろ、17世紀の段階では、痛風の特効薬コルヒチンはまだ開発されていない。血液が循環することさえ、認知されていなかったのである。ハーヴィー、シルヴィウスが痛風治療薬の開発に関心を抱いたとしても不自然ではあるまい。
ところで、ジュニパー?ベリーについては、紀元1世紀にディオスコリデスが編纂した「薬物誌」に記載されている。
「丸く、芳しく、甘いが、噛むと少々苦く、ユニペル?ベリエ(Juniper berrie)と呼ばれる。(中略)利尿作用があるので、痙攣、ヘルニア、子宮の狭窄症などにもよい」(鷲谷いづみ訳『ディオスコリデスの薬物誌』エンタプライズ)
特効薬コルヒチンの原料となるイヌサフランについても、「薬物誌」に記載されていて、痛風薬として紹介されている、などと巷間、流布されているようだが、そこは赤か黄のカードを突きつけたい。
詳しくは次回に譲るとして、先ごろ「バーネット」は国内生産を終了してしまった。オールドファンとしては寂しいかぎりである。
(作家 山本亥(がい)=文 佐久間奏=イラストレーション)