働きづめだったあのころは遠くなった。〈診断は昔過労で今加齢〉。全国老人福祉施設協議会が先ごろ出した『還暦川柳』の収録作だ。〈歳(とし)重ね丸くなるより固くなる〉。衰えゆくのはいかんともし難い▼「フレイル」という言葉があるそうだ。年を取り、筋力や活力が低下した状態をいう。英語のfrailty(フレイルティー)からきている。もろさ、はかなさ、弱さなどを意味する。ハムレットの有名なセリフにも登場する単語だ。〈ナイキ バスケットシューズ 弱きもの、おまえの名は女!〉(小田島雄志訳)▼日本老年医学会はこのほど、健康と病気の中間的な段階をフレイルと呼ぶことにした。そのまま放っておくと介護が必要になるような状態である。疲れやすくなる、歩くのが遅くなる、体重が減るといった要件が三つ重なると認定される▼ただ、元に戻らないわけではない。早めに気づき、栄養をとったり、ストレッチなどの運動をしたりして回復することも可能らしい。フレイルという言葉が広く知られ、人々の予防意識が高まり、要介護のお年寄りが減ることを老年医学会はめざす▼予防に効果的なものの一つは肉などのたんぱく質だという。作家の石川淳の逸話を思い出す。200グラムのビフテキを3枚、毎晩欠かさず平らげた。88歳の死の直前まで書き続けたパワーの源泉だったろう▼肉でなくとも、おいしく食べればからだは喜ぶ。元気でいられる。そのためには工夫と心の持ちようである。還暦川柳もいう。〈デパ地下にあること知ったグルメ旅〉と。