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graterの小説保管庫

graterが趣味で書いた小説を保管するブログ。

東京行きの高速道路を走る黒塗りのリムジンが一台。

その中に夕刻、龍助と会ったあの志多拓人が乗っていた。

その脇には50後半はあろう初老の紳士が座っている。

「古賀龍吾が見つかったか」

「はい、ぼっちゃま。お台場にいるようです」

そう答える紳士は志多拓人の付き人、石井雅[いしいまさ]である。

「今日、会った古賀龍助っていう少年。確かに似ていた…」

拓人は夕刻にあった龍助の姿を思い出す。

少年の奥深くにある大きな力。

そして自分の中にある力に気がついた事。

(おそらく彼も…炎の騎士か…)

拓人の手に一振りの刀が現れる。

それは白い刃で、つばを持たない刀であった。

刃からは何か光っているような印象を受ける。

「古賀龍吾、彼は僕の計画を知っている。絶対に邪魔だけはさせない」





準備を終えた3人は家を出た。

「ってちょっと刀なんて持ってちゃダメ!」

そう言って龍助を慌てて家の中に戻す。

「なんで?」

「昼間はまだあの格好だからコスプレで許されるけど。いや、実際ダメだけど……この格好で刀なんか持ってたら捕まるの!」

「そうなのか……」

龍助は悲しそうな顔をして刀を見つめる。

「でも、父ちゃんにこれ肌身離さず持っとけって言われたし」

玲奈もそう言われてはどう言っていいのか分からなくなっていた。

「エミィの魔法なら自由に出し入れできるよ♪」

エミィがそう言って自慢げに微笑む。

「本当か!」

「一つ目のお願いとして叶えてあげようか?」

「おう! それは便利だ!!」

龍助は深く考えずにそう答える。

「え!? そんな簡単に願い事決めちゃっていいの!?」

玲奈が慌てて龍助を止める。

「別にいいぞ! それなら玲奈にも迷惑かからないだろ?」

迷うことなく答える龍助になんだか玲奈は自分が恥ずかしくなってしまった。

(龍助でも…迷惑とか考えるんだ…)

「じゃあ、決まりだね♪」

エミィはそう言って魔法を唱えた。

すると龍助の持っている刀・龍火は赤い炎に変わり、龍助の腕にまとわりつくように動き出す。

そして炎が消えると、龍助の腕には龍の模様が刺青のように描かれていた。

「これで龍たんが出したいと思ったときに出せるし、しまいたいと思えばしまえるよ♪」

エミィに言われ龍助は龍火を呼び出そうと心の中で思う。

すると龍の模様が炎に変わり、すぐに元の刀の形になった。

「おー!」

それに感心しているのは龍助だけでなく玲奈も同じであった。

「よし! これで解決!」

龍助は再び刀を模様に戻し、そう言った。

「よし♪これで一つ目終了♪」

エミィも一緒に喜んでいた。



気を取り直して家を出たのは午後7時半ごろであった。

日はもう沈んでおり、すっかり夜である。

「4月とはいえ、まだ夜は少し肌寒いなぁ…」

玲奈はそう呟いて空を見る。

星がちらほらと見える。

「こっちの時代の星は少ないなー、500年の間に星はこんなに無くなるのか」

龍助も一緒になって上を見ていた。

「龍助の時代はもっと見えるの?」

「おう。町は真っ暗で今みたいに明るくないけど月と星が少しだけ明るくしてくれるんだ。それに夜は星を頼りにもするんだぞ」

龍助は視線を前に戻し、そう説明する。

「そっか」

玲奈は龍助の言葉を聞きながら星を眺めていた。

「エミィの世界には星は無いんだよ♪」

エミィが二人の前を飛び、そう話し始める。

「だけどプラネタリウムって物が夜空を作り出してるんだよ♪ とっても綺麗♪」

エミィの言葉に玲奈と龍助は感心していた。

「そういえば俺、こんな感じで女とずっと二人でいるって始めてかもな。」

「えっ?」



(なんでこいつこんなタイミングでそんなこと言うの…?)
「ろーるきゃべっつ?」

龍助は椅子にすわり、テーブルに並べられた料理の一つを覗き込みながらそう聞く。

玲奈はキッチンで料理を続けていた。

「龍ちゃん、ロールキャベツだよ♪」

エミィは皿のふちに座り笑う。

「だから龍ちゃんはやめろって」

龍助は顔を上げるとそう怒る。

「じゃあ、龍たん♪」

「ふざけてんのか!?」

「てへっ♪ あ! きんぴらごぼう!!」

玲奈がテーブルに置いたものを覗き込んでそう叫ぶ。

「エミィって案外物知り?」

料理が終わったのか龍助の対面に座る玲奈。

「人間界に来るために勉強しましたから♪」

エミィが得意げに敬礼する。

玲奈も席についたので3人はいただきますをして夕食を食べ始めた。

「勉強ねぇ」

ロールキャベツを箸で恐る恐るつつきながら呟く龍助。

「龍助には縁のない言葉だね」

玲奈はロールキャベツを二つに割ると口に運んだ。

「俺だっていろいろ勉強したぞ!!」

それを見てそう食べるのかと理解した龍助は玲奈の真似をする。

「何を?」

「文字とか、刀とか馬とか!」

おいしかったのか龍助の箸のスピードが上がる。

「あ、そっか。でもこっちでは役に立ちそうにないね」

それを見て安心したのか玲奈は微笑む。

「魔法とか♪ 人間とか♪」

エミィがきんぴらごぼうをむしゃむしゃ食べながらそう言った。

「なんかそれ、怖いね」

玲奈がそう言って苦笑いする。

「怖い?」

ごぼうを食べ終えたエミィは二本目を取りに歩き出した。



夕食を終えた龍助はテレビに映る映像に心を奪われていた。

実際に映っているのはニュース番組でアナウンサーがニュースを読んでいるという玲奈にとってはなんてことない映像である。

「龍助はあとどれくらいここにいるの?」

「ん?そーだなー、父ちゃん探さないといけないし…明日くらいには行くかな」

テレビから目を離さずに龍助はそう答えた。

「明日か……」

少し寂しそうな表情をする玲奈。

「んん!?」

テレビに夢中になっていた龍助が突然何かに反応する。

「何?」

玲奈の言葉には反応せず、ずっと画面を凝視している。

「ねぇ? 龍助?」

玲奈がもう一度龍助に話しかけるとゆっくりと玲奈の方に顔を向け、テレビを指差すとこう言った。

「父ちゃんだ」

「えっ!? お父さん!? お父さんは江戸にいるんじゃないの?」

龍助のまさかの発言に玲奈は立ち上がり、テレビに近寄る。

「いるはずぅ♪」

なぜか玲奈の質問にエミィが答えていた。

「しらねぇ……なんでここにいるんだ?」

どうやらお台場の生中継で天気予報をしている後ろを歩いている男がそうらしい。

そう言われて良く見ると龍助と雰囲気がそれとなく似ている。

「なんで父ちゃんがこんなとこに」

そう言って龍助はテレビを持ち上げようとする。

「ちがーう! ちょっと待って!!」

玲奈が慌ててそれを止めた。

「じゃあどこにいるんだ?」

龍助は腑に落ちないようで玲奈にそう聞く。

「本当にこれがお父さんなの?」

玲奈の問いに龍助は迷いなく頷く。

「でもお台場は遠いし」

「父ちゃんの居場所が分かるのか!? じゃあ連れてってくれ!!」

龍助は父親の所在が分かったのが嬉しいのか玲奈にそう訴える。

「うーん」

玲奈は現実的なこと考えて、黙り込む。

ここは大坂、東京まではかなり距離がある。

「頼む! 玲奈!!」

龍助の真剣さに負け、玲奈はため息をつく。

「分かった……今から行こ……」

玲奈の言葉に龍助は嬉しそうに笑った。

「じゃあ準備するよ!!」

「はいちゃ♪」

「おう!」
妖精界の時間軸は人間の住む太陽界と同じではないが、ある一定の期間では平行している。

まだ龍助が現代に来る前の妖精界。



「ふー、あとは卒業試験だけかー」

エミィは体を伸ばしあくびをする。

「ま、単位足りてたらだけどな」

笑いながらエミィにちょっかいを出す妖精が一人。

オレンジ色の短髪で性別は男、名前はフォルである。

「ちゃんと単位足りてるもんね!」

エミィがそう答え、あっかんべーをする。

「ぎりぎりのくせに」

「あら、フォルだってぎりぎりだったじゃない」

二人が子供のようなやり取りをする脇で落ち着いた雰囲気で本を読む女妖精が一人。

水色の長い髪と知的な顔立ちからは色気が見える。

名前はビスで、二人とは同い年である。

「俺は実践派だからな。実技は好成績だったし」

フォルは自慢げにそう語る。

「好成績って言ったってウィドより全然低いじゃん!」

「エミィなんかもっと悪いじゃん」

「うるさいなぁ!」

顔を近づけフォルを睨むエミィ。

そして耐え切れなかったのかエミィがフォルのわき腹に蹴りを入れるとフォルは痛みに耐えられずうずくまっていた。

「俺がどうしたって?」

話が聞こえていたのか通りすがりにウィドが寄ってきた。

ウィドの髪は紫色で身長はフォルよりも高かった。

「何でもねぇよ、天才」

フォルが皮肉交じりにそう言った。

ウィドは学年の中で一番成績が良いのだ。

「天才は俺じゃないだろ、あの3つ上の…」

「ホワイだろ?」

彼らの話すホワイとは妖精学校を過去最高の成績で卒業していった妖精である。

「エミィの好きな妖精さんね」

ビスがそう言ってにっこり笑う。

「違うって! 好きじゃないよ!」

エミィが慌ててそう否定するがビスは笑ったまま何も言わない。

「マジか、初耳だな」

「違うって! ただの幼馴染だよ♪」

エミィが否定するも誰も聞き入れてくれないようであった。

エミィたちは今、教室で卒業課題の説明会の時間を待っている。

周りにも同じく卒業課題を受けるために妖精たちが10人ほど集まってきていた。

そして時間になると大人の妖精が入ってきて、皆の前にある教壇に立った。

「はい、今から卒業課題の詳しい内容を説明します」

そう言って魔法でプリントを皆の手元に飛ばす先生妖精。

「開始日は明後日、そして期限日は2ヶ月後。それまでに人間の誰かの願い事を3つ叶えること」

話を聞きながらプリントに目を通す妖精たち。

「誰でもいいの?」

エミィが手を上げてそう聞く。

「はい。誰でもよろしい。質問は後でまとめて聞きますので、次に進めさせてもらいます」

エミィは苦笑いをしながら手を下ろす。

「魔法を使う際。以下の事を遵守してください。」

エミィが再びプリントに目を通すと注意事項として以下のことが書かれていた。



・魔法はレベル3まで使用可。

・願い事以外で魔法を使うことは原則禁止。

・己の命の危機の際には魔法を使うことを例外として認める。

・やむを得ず魔法を使用する際、または使用した際は一度妖精学校へ戻り、担当教官に事前報告または事後報告を行い許可を得なければならない。

・以上記載内容を守れない場合、原則卒業単位を与えられない。



「いいですか。絶対に守ってくださいね。」
謎の青年が龍助の元へ現れたのと同じ頃、玲奈は家を飛び出し、龍助を探すべく住宅街を走っていた。

(龍助、どこにいるの?)

「さっき、隼と二人でどこかに行くのが見えたよ♪」

エミィが玲奈の横に行き、そう教える。

「隼と? 喧嘩でもしそう」

「じゃあ、この辺に人気が無くて、広い場所ってないの?」

エミィが玲奈の肩の上に着地してそう聞く。

「この辺で……あ! 河川敷!」

「たぶんそこだよ♪」

「じゃあ反対じゃん!!」

そう言って急ブレーキをかけると玲奈は反対方向へと走り出す。

「あちゃー♪」





「よかったね。殴られずにすんで」

隼が逃げた河川敷では龍助と謎の青年が対面している。

青年は笑顔で龍助に話しかけていた。

「お前、何者だ?」

龍助は決して気を許さず、青年を睨み続ける。

「僕? 僕は志多拓人[しだたくと]」

青年はそんなことも気にしてないのか笑顔で答える。

「お前、そんな平和なやつじゃねぇだろ」

「いやいや喧嘩はよくないものだよ」

龍助はその返答によりいっそう拓人を睨みつける。

「じゃなきゃ、あんな殺気放てるわけねぇ……」

その言葉を聞いた瞬間拓人の顔から笑顔が消え、一気に目が冷たくなった。

「ふふ、すごいね……君もすごい魔力あるじゃん」

「……うさんくさい野郎だ」

龍助はそう言って拓人から離れるように歩き出した。

「本気出せば殴られる暇なんて与えなかったのに何で殴られようとしたの?」

拓人の言葉に龍助は足を止め振り返る。

「もう一度、聞く。お前何者だ?」

その質問に対し、拓人は笑うだけであった。

「君の名前は?」

拓人は笑顔に戻すと龍助にそう聞く。

「古賀龍助」

「龍……助か、覚えとくよ。今度どっかであったら声かけてね」

拓人はそう言って笑いながら龍助とは逆方向に歩いていった。



それと同時に玲奈が河川敷に到着する。

(あいつ……ん? 玲奈!?)

龍助の目に息を切らしてこちらを見つめる玲奈の姿が映った。

「龍助!!」

玲奈も龍助を見つけ駆け寄ってくる。

「はぁ……やっと見つかった」

玲奈は息を切らしながらもそう呟く。

龍助は玲奈の方に目を向けず、下を向いたままであった。

「あのね、龍助…」

「ごめん!!」

玲奈が話し始めると同時に龍助が大きく頭を下げた。

「え?」

玲奈は龍助の予想外の行動に驚いてしまう。

「俺、玲奈のこと何にも考えずに、ただ……俺がむかついただけで、殴って、だから……その、えぇっと」

玲奈は何も言わずに龍助に抱きついた。

「ううん……私が悪かったの。龍助のこと何にも分かってなくて、勝手に決め付けて怒って。だから、私からもごめん」

「え? 玲奈?」

今度は龍助が玲奈の行動に驚く。

玲奈はゆっくりと離れ、頭を上げた。

「でも殴るのはダメだからね!」

玲奈の言葉に龍助がしゅんとなる。

「龍助お腹すいたって言ってたよね。だから家帰ったら晩御飯作ってあげるからこれで何も無しね」

玲奈がそう言って笑うと龍助は安心したのか固まっていた表情をゆっくりと動かす。

「そうだ! 飯だ!」

「飯♪飯♪」

様子を見ていたエミィも嬉しそうに笑う。



そして3人は夕焼けの中、玲奈の家へと帰っていった。
龍助は突然の出来事にただ立ち尽くすことしかできない。

「あんたがこんなに乱暴な人だとは思わなかった!!!」

玲奈の怒声が散らかった部屋に響く。

「ちょっとでもあんたをいい奴だと思った私が馬鹿だった!!!」

龍助はただ驚いて怒る玲奈を見つめる。

「――って」

「え……?」

「もう出てって!!!」

玲奈はそう叫び、置いてある龍助の刀・龍火を手にすると龍助に押し付け、そのまま押すように部屋から龍助を追い出した。

驚く龍助に視線も向けず、玲奈は扉を閉めると部屋の鍵も閉める。

どうしようもない龍助はしばらく扉を見つめていたが、無言で階段を下りていき、家を出た。

そして玲奈の家を出たところに池沢隼が立っていた。

「ちょっと来てもらおうか」

そう言って龍助を睨む隼。

「……あぁ」

龍助が小さくそう答えると二人はどこかを目指して歩いていった。



「明日から学校でどうすればいいんだろう。隼にも何て言えばいいんだろう……」

そう呟きながら玲奈は涙を流し始めた。

「あれ? なんで、私……泣いてるんだろう」

涙をぬぐいながら玲奈は泣いている理由を考える。

「隼に嫌われたから?」

玲奈は首を横に振る。

「違う……学校で変な噂立てられるから? ううん、違う……」



(あいつに裏切られたから……私があいつをいい奴だと信じてたから)



「泣いてるの?」

部屋でうつむく玲奈の耳に誰かの声が聞こえた。

「妖精ちゃん? 龍助なら…出てったよ」

玲奈は顔を上げ、そう言った。

「さっきね……龍ちゃんと隼が喧嘩してたのはね」

エミィが玲奈に焦ったように話しかける。

「隼がひどいこと言ったんだよ?」

「だからって殴っていいわけじゃないよ……」

玲奈はそう呟いて再びうつむく。

「うん、だけどね、さっきね……隼がね、玲奈の身体が目的だって言ってたの」

「え?」

玲奈が顔を上げてエミィのほうを見るとエミィは泣きそうな顔をしていた。

「そしたら龍ちゃんが怒って……隼があんな冷めた女の何がいいんだって、どうせお前も身体目的なんだろって……そしたら龍助が玲奈の事悪く言うなら許せないって」

「それで……龍助が殴ったの?」

エミィが頷く。

「そんな……私のせいだったのに、龍助に一方的に怒っちゃった」

玲奈は涙をぬぐう。

「……謝らなきゃ」

「良かった。分かってくれて」

エミィは安心したのかいつものように微笑んだ。

「龍助を探さなきゃ……会ってちゃんと謝らなきゃ!」

玲奈は部屋の鍵を開け、階段を下りていった。





雑草が生い茂る河川敷で二人の青年が向き合っている。

「先に手だしたのはお前だからな」

それは隼と龍助であった。

「あぁ……」

「後悔すんなよ!?」

そう言って隼が龍助に殴りかかった。



その瞬間、龍助に寒気が走る。



「喧嘩はよくないよ?ましてや殴るなんて……」

どこから現れたのか180以上はあろう長身の男が隼の振りかぶった拳を掴んでいた。

「やっぱりちゃんと話し合いで解決しなきゃ」

男はにこっと笑ってそう言う。

「てめぇ! 邪魔すんじゃねぇよ!」

隼がそう言ってその男に目を向けた瞬間、龍助は殺気を感じ取る。

(こいつ!?)

思わず龍助の手が腰にある龍火にかかった。



しかし何も起きない。



「やめろって言うの分からない?」

男の落ち着いた声が逆に隼の恐怖心を煽る。

それに気づいてか男は隼の手を離した。

「く……なんだよ」

隼はそう呟いて、逃げるように走り去っていった。