もうすぐクリスマス・・・
夕方になるのが早い。最近太陽を見ていない。
師匠達が笑いながら
「パティシエはみんな吸血鬼」とか言ってた。確かにそう思う。早朝・・・というより深夜に近い時間に職場に行く。日が沈んでから帰り、日が昇る前から仕事。一段落した時間にゆっくりと朝日が差してくる。

朝から全員眉間に皺が寄ってる。全員カルシウムが足りない?いいや、どうやら配送迄に間に合わないらしい。
「とっとと苺切れ!!」とか
「この忙しいのに不良だすな!!」とか怒声が聞こえる

なんかいつもだから気にしないけど。粉箱が知らん間に空になっているからがっしりと薄力粉25kg書かれた袋を抱え運ぶ。朝から盛んだな おい。 粉なくなるなんてとんだけ焼いてんだろう?


12月初めからクリスマス用にスポンジを焼いて冷凍する。その数一日に100以上。一回に焼成できる数は30。日を追うごとにその数は急速に増えるし、
「使えねーんだよ!!このボケが!!!!」という悲痛な叫びと共に60リットルのゴミバケツにいくつかのスポンジが叩きつけられることもある。焼 きが甘い、高さが無い。ナマ焼けだったというシロモノ。もちろん激怒られるのは私。口応えなんざしよーもんなら恐ろしいことになる。チョコレートものを合 わすと一日200は確実

もちろんレギュラー商品はいつもの1.5倍量に増え、手間のかかるモンブランが秋に復活。その上、暖冬と判った年には苺が高騰する。原料の高騰に師匠はえらく機嫌が悪い。
「なんで売れば売るほど赤字になるんだよ?!一台売るたびに200円の損失とか マジありえねー!!
ちょっ、お前交渉して一箱1500円しろ。3000円とかなんかで持ってこさすな! 」
うん 悲しいけどこれ実話なんだ。気づいたら焼成に3時間かかるチーズスフレ量産するとか言うんだぜ?!一回に12台しか焼けないっていうのに。これは寝るなとかいうお告げ?

「師匠 玉子一日10000個って・・・なんかコマーシャルありましたよね?」とか言うと師匠は殺気立っているんでね、焼き立てのケーキ型が飛んでくる。あっぶねー もう少しで顔直撃じゃねーですか!!

「師匠 ドーデもいいからここは 私一人でやるんでタバコでも吸ってきてください」
追い出しに成功!!落ち着いて焼き場で一人、生地を作り焼いていく。


そう 12月の私のイメージはイルミネーションでもシャンパンでもクリスマスツリーでもクリスマスソングでもない。つうかさーソング飽きて気づいたら流れてるのが演歌だよ?いや まぁいいんだけど。

「津軽海峡冬景色~」
「天城超え~!!!!!」とほぼ絶叫しながら焼きたてのスポンジを扇風機全力全開に当たった棚に運ぶ。室温その時10度。半そでで(コック服をひじ上まで折り返しているから)窓は全開に空いて凍りそうなほどの風が吹いてくる。


大量のスポンジと甘酸っぱい苺の香。それに、恐ろしく粉にまみれて顔は真っ白、冷凍卵白や卵液をこぼしてイカ臭い冷蔵庫に閉じ込められえる・・・それが全て

クリスマスに甘い性なる夜どころか
スポンジやらプリンのお化けやオーブンのお化けでうなされるという全然ロマンチックから遠い 遠過ぎる夢に数日うなされる。たんぱく質には嫌と言うほどまみれるが。 恋人との甘い一夜・・・というもんは幻想。夢。幻。手にこびりついた卵液をじっと見て「私 何してんだろう・・・・?」と口にして「仕事してんだろうが?帰りたかったら とっとと割れ。まだ二箱(一箱は約200個入り)残ってんだぞ?」という無常の師匠の言葉に我に返ると言う体たらく。

先輩と二人でもそもそと苺を乗せながら「うちらって・・・今日がクリスマスのイブイブなんですよねー?なんでこの時間に苺とか乗せてるんですかねー?」時刻はもはや20時。掃除もまだしてないから帰れない。本日泊まり?
こんな泊まりは嫌ー!!


それゆえに

ああ それゆえに!!!

普通のクリスマスってなんだよ?!

知らねーよ!!クリスマスケーキがくそまずいことくらいしか、その原因がナンなのかしか知らないんだよっ!!


てことで

「普通のクリスマス」を教えてください。よろしく