ついさっきだった。空が泣きだす前、若いやつが私に挑んできた。


何かを勘違いしているようだったが、挑んできたやつを拒めば後々やっかいなことが起こる。縄張りを奪われ他の奴らから迫害という末路だ。もちろん負けても同じこと。だが負けやしない。私にはここにいる理由がある。


「カタナ」


やつが帰ってくるまで私は負けられないのだ。   

私もやつも若かった頃。そう、まだ「黒夜叉」と呼ばれる前だ。血の気が多い私に比べてカタナのやつはいつも何かを考えていた。


「今日は何を考えてたんだ?」私はカタナが考えることを聞くのが好きだった。私が思いもつかないことを話しだす。この間は「空はどこまであるのか」とかだった。         

「飛べば分かるんじゃないのか?」私は安易に答えてしまうがカタナは首を横に振る。


「そうだけど飛び続けてもすぐ限界が来るだろう?特に上に飛んでも捉まるところが無いからさ」  冷静なカタナの目は澄み切った青い空を見つめていた。人とかいうのが作った灰色の石の固まりが地面からの世界を狭めはしていたが、それでも空はある程度飛べば広がる。


ふぅむ。私は同じように空を見上げた。何か飛ぶものが一本の筋を引いていた。 「あれより高く飛べばいいのかもな」私が言うとカタナはふっと笑って「ああ そうかも」と言った。 私はカタナが好きだった。私と違う何かをたくさん持っていたからだ。    

今日は何かがいつもと違う、と感じた。思い更け方が何か違う。    「…」黙って横にいる。カタナも黙っていたがぽつりと

「白いカラスはいると思うか?」

「えっ?」


白いカラスって…あっけに取られた。鴉は黒い、内側の羽は白っぽいグレーだが。時々陽に焼けて茶色いやつもいるが。

それとは違うらしい。真っ白なカラス。      

「…見たことは無いな。鴉ってのは大体全部が黒いから鴉なんじゃないのか?」私は見てきたものをまた安易に答えていた。カタナはいつものように首を横に振る。
「僕も見たことは無い。けどさ例えば…鳩。鳩だって白いやつや灰色だったりするのがいるけどやっぱり鳩じゃないか!」

カタナの何だか得体の知れない力に押されそうだった。確かに、色で区別されないな…しかし鴉って何だってことにならないか?
「そうなんだ分からなくなったんだ。僕達は鴉、だけど黒いからなのか?飛ぶからなのか?さっきすずめのやつらが言ったのを聞いていて分からなくなった。ただすずめのやつらや鳩より大きいそれだけ、なんだろうか?白いカラスがいるならこの目で確かめたい…」カタナは随分と思い詰めていた。


「カタナ、思い詰めすぎだよ何を言ったか知らないが所詮すずめの戯言だ」  その時背後で聞こえた。

『カラスは黒ばかり、白いのが居てもカラスかな?ちちち白いのを探したやつなんていないよ』

「黙れ!すずめども!」私は一括した。すずめ達は散々に飛んでいった。ふぅっと息を一吐きしてカタナの横にきた。「考えてもこの辺り一帯の鴉はみな黒いんだ…そうだろう?」こんなことを言ってもカタナは絶対に納得などしないだろう、しかし、どうにも言うことが無かった。     

夕暮れが夜を纏い始めた。そここに太陽のように眩しい明かりがつき始める。夜目の私たちには有り難いが今日は巣に帰ろう…カタナの思い詰めた顔が今でもはっきり浮かぶ。私は無力だ…親友の悩みに答えてやれない。力だけならな…カタナを巣まで送った後も考え続けた。しかし何も浮かばなかった。鴉ってなんだ?親友の言葉が頭をよぎる。なんだろうな…わからんよ私には。ぽつりと空が泣きだした、私はこの間のように空を見上げた。程なくして雨が全身を濡らした。ぶるりと身震いして水滴を弾くと巣へと飛んだ。その晩私は眠れなかった。カタナのこと いろいろが頭を巡っていた。