桜の枝が頭の上で幾重にも重なってその隙間から漆黒の闇夜がどこまでも広がっている。


桜の木に吊された白熱灯を仕込んだ提灯から淡いはちみつ色の光が 白い小さな花を柔らかい蜜色からピンクにそうして白から闇夜にぼんやりとグラデーションをかける。枝の隙間からの半月もおぼろにかすむ。


私は小さな二つの手をギュッと握り締める。泣きべそをかく弟妹、泣かないように下唇をぎゅっと噛み私は上を向く。刹那、枝を強く風が揺らす。舞散る花びらが目の前一面に光に反射して白く浮く。  


花に、酒に酔った大人達に混じり 私は歩く。




桜の花。



もちろん、どこまでも続いていきそうな澄んだ青に映える 白さを競い合う桜もいい。光を跳ね返す川面にしだれる風景も捨てがたい。


だけれど 小さな頃から私は夜桜に心を引かれる。 

闇夜にしっとりと濡れるしだれた枝先は なんとも艶っぽく甘く切ないし、全体から見渡せば淡い白が漆黒に溶け切らずに存在する。

花は柔らかく夜の一部を包み抱くように 夜も力強くそんな花を抱き締めているようで、そのコントラストが、何だか言いようの無いものが 私へと迫ってくる。


もうすぐ 桜が咲く



この日の為に葉を着け そしてさっぱりと落とし切り、今か今かと暖めていた花を咲かせる。      

また 白い可憐な花を