宝塚歌劇団を退職したウエクミ先生こと上田久美子さんのインタビュー記事。
「推し」でなく中身で問う演劇 宝塚を離れた演出家が向かう先:朝日新聞デジタル
Twitterのタイムラインを見ていると、中には「宝塚を否定された」「宝塚ファンを馬鹿にしている」と感じたヅカファンもいるようですが、私はそうは思わなかったです。
上田さんが退団されたのは「仕方ないよなぁ」と思いました。
だって、宝塚ってめっちゃ特殊ですもん(笑)
時代とともに変化はしているけれど、創設者の理念である「清く正しく美しく」「老若男女が楽しめる大衆演劇」というのは動かせない。
あと、なんといっても出演者は女性だけ。
他にも、揺るぎないスターシステムが確立しているとか、原則ロングランは無いとか、ね。
上田さんはとても頭が良いのだと思う。
経営学ベースで、どうすればその特殊な“タカラヅカ”ルールの中で「一番効率よく客を呼べるか」を考えてきたのだと思う。
その計算のもとに作られた舞台は、見事にファンが喜ぶものになった。上田さんから見たら、つまらないくらいに計算通りだったのかもしれない。
しかしここにきて、やりたいことが“タカラヅカ”ルールでは出来なくなったんでしょうね。
BADDYとかFRYING SAPAで薄々感じていたけれど。
つまり「現実社会に対してモノ申したいことがある!」のでしょう。
しかし宝塚にいる限りは越えられない枠組みがある。それなら外に出るしか無い、と考えて飛び出したのだと思います。
宝塚に在籍しながらも、その枠組みをガリガリと削っている演出家もいます。
例えば、野口先生。
宙組「HiGH&LOW」の原作はどう考えても宝塚らしく無い設定ですが、それを「コブラとカナの恋物語」を入れることで宝塚色を出そうとした。そして“タカラヅカ”の枠をちょっとだけガリッと削ってみせた。私には痛い削れ具体でしたがw
来年月組が予定している「応天の門」の原作は、恋愛要素が少ない。少なくとも主役の道真にはほぼ無い(婚約者とのほんわかはあるけど)です。
そのため上演が発表された時に、原作ファンの方たちが「え、宝塚って恋愛ものじゃないの?」と驚いていました。
つまり宝塚を良く知らない人たちからは「宝塚=恋愛」と思われているわけです。(そのイメージを野口先生は活かした)
ヅカファンはもう男同士のバディ物が“タカラヅカ”の範囲内であることは知っていますけど、これも過去に先生たち(主に正塚先生)がガリガリ削った結果ですよね。
考えてみたら、私たち観客は観たいものを選べるんですよ。
華やかで美しいものを観たい時、人間関係ドロドロのものを観たい時、ダンスだけのパフォーマンスを観たい時、猥雑でエロチシズム溢れるものが観たい時・・・などなど。
それに合わせて様々なジャンルの舞台を観ることが出来る。
宝塚大劇場も、浅草九劇も、オペラ座も行ける。
また、ほどんどの俳優や演出家は、もちろん所属事務所の方針などはあるでしょうけれど、様々なジャンルと関わることが可能でしょう。
ミュージカル、ダンスパフォーマンス、ストレートプレイ、一人舞台・・・などなど。能力さえあれば。
でも宝塚の中の人たちはそういうわけにはいかない。
在籍している限り“タカラヅカ”として求められているものを作る必要がある。それをやめてしまったら、宝塚歌劇の存在意義は無くなるし、ファンは離れていき、最終的には経営が維持出来なくなるでしょう。
宝塚歌劇団は1000人単位の従業員がいる企業ですからね。経営方針をそう簡単に揺らがせるわけにはいきません。その方針に沿えなくなったら辞めるしか無いのは仕方ないですよ。
それは演出家だけじゃなく、スタッフも、演者である生徒も。
元・生徒さんで「宝塚が合わない」と感じて退団し、ご自身で脚本を書いたり一人舞台をしたりしている方もいらっしゃいますよね。
というわけで、上田さんが宝塚を退団したのは、仕方ないなぁと思うのです。
むしろ、成功した今の地位を捨ててでもやりたいことを見つけられるって、人として羨ましいですわ。
もうひとつ、海外と日本の観客は見方が違う=海外は作品を見に行くが日本は「推し」を見に行く、という意見についてはどうなんでしょうね?
私が数年前(2019年)にブロードウェイでCHICAGOを観た時なんですが「今日は○○さんの誕生日なの」と現地の女子たちがワイワイ観に来てました。ちなみに南米出身の男優さん。
ご本人もアドリブ的なことを入れて(英語じゃなくスペイン語にしてみたり)ファンサしてました。
どこの国も一緒ねぇ、と思ったものです(笑)
某TV番組で「なんで日本に来たの?」と外国人に尋ねると、ジャニーズのコンサートに来たなんて人もいるじゃないですか。それこそ宝塚を観に来たドイツの女の子もいましたよね。
ちなみに私は「推し」が出ていなくても、面白そうだと思ったら観に行きますよ。
ケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチさん)の作品とかね。でもケラさんは推しではないです。ケラ作品でも惹かれなければ観に行かないから。
上田さんの作品がそうなるかはまだ良くわからないな。
どんなに良い脚本でも、結局は演者にそれを体現できる能力が無ければ面白くないし。能力がある演者は結局「スター」になり、つまるところ誰かの「推し」になりますからね。そこを否定して上手くいくのかな。
リアル人間関係は面倒だけど、スターに対する金銭的な貢献はシンプルであり、育成したことに満足もできるからファンになる。スターも芸ではなくファンサで稼いでいる。
これは宝塚のことじゃなくて、アルファベット三文字のグループのことを言っているんだと思いますが。
このあたりの業界(あとアニメ界)はむしろ経営側に問題あるなと感じることがしばしば。若い子のお小遣いを搾取するようなガチャ的なグッズ販売などはやめるべきだよなぁ。
あとはまぁ、ストーリーと関係なく泣く人とか、余韻関係なくスタオベする人はね、宝塚とか日本とか関係なくいますよ。
悲しい場面なのにセリフの一端だけで笑い声あげるとか。クラシック演奏会で、最後の音の響きがまだ残っているのにブラボー言う外国の方もいますし。
でも、ほとんどの観客はちゃんと作品の中身を観ていますからね。
観客の見方がうんぬんというよりは、日本は観劇する層が薄いのが問題なんだと思います。
そもそも欧米の社交場は、夫婦で(カップルで)参加するのが基本。だから「子供はシッターに預けて夫婦で出かける」のが当たり前で、舞台の開演時間も夜の20時とかが普通です。
一方で日本は「社交は男の役割、女は家の中にいるもんだ」という文化。息子は帰宅が深夜でもいいけれど、娘は午前様はNGなんて親も多い。
今はそれが少しずつ変わってきている途中ですよね。
劇場へ足を運ぶ人を増やすためには、上記の社会的な構造の変化も必要だし、国の助成金による低価格化、子供のころからの教育も必要でしょう。
そして、制作側としてその問題に立ち向かっていきたい、というのが上田さんの今の希望(野望?)なのだと思われます。
どうか頑張っていただきたい。
安くて良い作品を観られるなら、舞台ファンとしては大歓迎!
誰とは言わないですが、出演者にスターばっかり集めて切り貼りして、まるで自分の手柄のようにウホウホしている劇作家もいますから。
そういうのを駆逐するためにも、上田さんには本当に頑張っていただきたいと思っております(笑)
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