珍体験である。


東京の友人の結婚式に出席するために

下関発の「あさかぜ」の乗った。

翌日の午後に到着すればいいので

のんびり寝台特急で行こうと思ったのだが、

問題は前日までの大雨で、

山陽本線の光付近が土砂崩れで不通に

なっていたことであった、


「あさかぜ」が運休なら新幹線で行くしかないと

思っていたが、運行するとのことだった。

山陽本線が復旧したのかというとそうではなく、

岩徳線経由で運転するとのこと。


岩徳線は、山口県の岩国と、徳山の隣の

櫛ヶ浜を結ぶローカル線である。

海沿いを回る山陽本線と比べて

山中をショートカットするため、距離は短い。

ただし非電化のローカル線で山道なので、

ブルートレインや過去走っていた優等列車は

山陽本線を経由していた。

岩徳線を走るのは普通列車ばかりである。


そんな岩徳線を寝台特急が走るという。


当時は「冨士」「さくら」「はやぶさ」「なは」

「彗星」「あかつき」と走っていたが、

我が「あさかぜ」がその先陣を切って

岩徳線に挑む。


下関発時点で、同じ車両に乗っていたのは

10人いないくらい。

定刻どおり徳山に到着すると、しばらく停車した。

電気機関車をディーゼル機関車に

交換するのだろうと思ったら、

電機の前にディーゼルをつなげて、電機ごと

引っ張っていくという。


徳山を若干遅れて発車すると、櫛ヶ浜から

いよいよ岩徳線に進入する。

ローカル線で線路もひ弱だから、

恐る恐るといった感じでゆっくり走る。

すでに夏の日も暮れており、

夕餉を楽しむ家の灯りが見えたりする。

通過する小駅では、いきなり現れた

青い列車に目を丸くする人がホームに見える。


割と長めのトンネルを通過したりして岩国に到着。

岩徳線ブルートレインは終わった。

多分かなり貴重な体験だったはずである。

岩国からは牽引していたディーゼル機関車を

切り離して、そのまま東京に向かって出発。

と思いきやなかなか発車しない。


どうやら一緒に引っ張ってきた電気機関車の

パンタグラフか何かが、トンネルで損傷したらしい。

電化されていないから架線がない分、

トンネルの断面が小さいのだろうか。

結局、広島から代わりの機関車を回送してくると

いうことで、岩国でしばらく停車。

2時間遅れくらいで東京に向かってようやく出発した。


東京にはそのままの遅れで到着したが、

結婚式には間に合ったので問題はなかった。

珍体験を楽しめ、いいネタになった。

機関車の損傷という失敗を犯したので、

後続の列車も岩徳線を経由したのかは定かでない。

もしかすると、後続は運休になって

「あさかぜ」が唯一の岩徳線ブルートレインだったかも

しれない。