こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
『ルパン三世 カリオストロの城』は、シリーズのなかでも異色作だ。
この話ではルパンは盗みを働かず、クラリスを助けるためだけに決死の冒険をする。
そんなルパンを支えて、次元も五ェ門も不二子も暗躍し、さらには銭形警部も協力する。
全体に、とても優しくて、温かい物語だ。
だからといって、地味な話ではない。
ハデなカーチェイスも出てくるし、食事の場面ではビックリするほど食べるし、ルパンのアクションもすごい。
とくに、幽閉されたクラリスを助けるために、カリオストロ城に潜入するシーンは印象的だ。
激しい水流のなかを泳いだり、傾斜のキツイ屋根の上を走り回ったり……と、手に汗握る状況なのに、つい笑ってしまう場面が続く。
『カリオストロの城』でも、屈指の名シーンといえよう。
そこで、それらの場面の描写から、「ルパンがどれほどすごいことをやったのか」を考えてみたい。
◆「ルパンの滝登り」のすごさ!
クラリスが閉じ込められているカリオストロ城は、湖の真ん中にある。
岸とは二つの橋でつながっているが、警備がとても厳重だ。
橋の一つは、城内に水を引くための「水路橋」になっていて、侵入するならそれを使うしかない。
そこでルパンと次元は、スキューバをつけて、橋のなかの水路を泳いでいく。しばらく進むと、水路は途切れ、水は滝のように流れ落ちている。次元は壁につかまって堪えたが、ルパンは滝のなかに落下……!
が、ここからのルパンがすごい。
流れ落ちる大量の水のなかを、ルパンは上に向かって泳ぐ!
しばらくは落差1mくらいのところに留まり続け、やがて次元の手に届きそうなところまで戻ってくる。
最終的には落ちてしまうが、滝の流れに逆らって泳ぎ続けたのだから、驚異的だ。
この「ルパンの滝登り」シーン、計測すると彼は滝のなかで22秒も粘っている。
ルパンの身長179cmと比較すると、彼が泳いだ滝の水流は、幅2m、厚さ1.5mほど。
こういう滝なら、流れよりも速く泳げば、さかのぼることも可能だろう。
問題は、水が流れ落ちる速度で、画面の描写から計算すると、水路から落ちる直前のスピードは秒速2.96m。
男子平泳ぎ100mの世界記録は、イギリスのアダム・ピーティが出した56秒88(2019年)で、その平均速度は秒速1.76mだから、ピーティでさえこの流れに逆らって泳ぐことはできないということだ。
しかも、秒速2.96mとは、流れ落ちる前の水の速度。
滝の場合、自由落下の速度が加わり、水のスピードは増していく。
前述のとおり、ルパンはしばらく落差1mのあたりに留まり続けていたが、その地点の水流は、秒速5.33mだ。
これに対抗して、その場に留まり続けたということは、ルパンは秒速5.33mで泳げるはずで、そういうヒトの100m平泳ぎの記録は18秒77。
金メダリストの3倍も速い!
このシーンは本当に驚愕なので、ぜひ『カリオストロの城』で確認してほしい。
◆「屋根から大ジャンプ」を考察
もう一つ、尖塔の屋根を駆け下りて、ポワ~ンポワ~ンと大ジャンプする場面もすごい。
これ、ルパンとしても、そんなことをするつもりはなかった。
ワイヤーのついた小さなロケットを飛ばして、ワイヤー伝いにクラリスのいる塔まで行こうとしたのだ。
ところが、誤ってロケットを落としてしまい、これを取りに行こうとしたところ、あまりにも屋根が急で、足が勝手に走り出して止まらなくなる!
もはやロケットどころではなくなり、「あららららら~」と走っていって、そのまま屋根の端からジャンプ!
ポワ~~~ンと宙を跳んで、途中にあった建物の尖った屋根を蹴り、もう一度ジャンプ!
またポワ~~~ンと跳んで、今度はビターンと建物の壁に激突!
幸運にもこれがクラリスの幽閉されていた建物で、ルパンは根性でしがみついて、壁をよじ登っていくのだった……。
笑えるし、感動するし、そして科学的に気になって仕方のないシーンである。
この2度にわたる大ジャンプは、どれほどすごい行為なのか?
ルパンが走った屋根は、上のほうは60度ほどの急勾配だった。
そこから傾斜はだんだんゆるくなり、いちばん下はほぼ水平で、ルパンはそこから斜め上30度の角度で飛び出す。
1度目のジャンプの滞空時間は3.2秒。
そして、離陸地点と同じくらいの高さの尖塔に着地して、2度目のジャンプに至っている。
1度目のジャンプのポイントは、3.2秒という滞空時間だ。
前述の「離陸地点と着地地点が同じ高さ」という条件のもとで計算すると、ルパンが跳び上がった高さは、なんと12m55cm!
キューバのハビエル・ソトマヨルの走り高跳びの世界記録2m45cm(1993年)より10m10cmも高い。
離陸のスピードを計算すると、時速56km。
そして、上向きにこの速度を出しながら、斜め上30度の角度で跳んだということは、水平方向には時速98kmで跳んだはず……!
屋根を駆け下りる勢いがついていたとはいえ、あまりにスゴイ。
◆どんな速度でぶつかった?
2度目のジャンプは、もっとびっくりだ。
滞空時間は2.3秒。
1度目のジャンプより短いが、忘れてならないのは、このときルパンは、跳躍の最高点で壁にぶつかったこと。
つまり、ジャンプのちょうど半分でぶつかったわけで、もしぶつからずに離陸地点と同じ高さに着地したら、滞空時間は4.6秒、ジャンプ高度は25m92cm、というオドロキの大跳躍になっていた……!
イラスト/藤嶋マル
そして、そんな勢いのまま、ルパンは壁にぶつかったのだ。
激突スピードは、前述の水平方向の速度そのままの時速98km!
高速道路で車にハネられるようなもので、こんな勢いで壁にぶつかったら、命を落としても不思議ではない。
しかし、ルパンは無事で、それどころか落下することなく壁に張りつき、壁をよじ登ってクラリスに会いにいく……。
あまりの超絶プレーを、顔色一つ変えずにやってのけるルパン。
それほどクラリスを大切にしていた、ということに他ならない。
『カリオストロの城』で一連のアクションを確認すると、クラリスが心を盗まれてしまうのも、しみじみ納得できるはずだ。
柳田理科雄著・Yahoo!ニュース5月5日付記事転載
柳田先生は今回も絶好調ですね。あの無茶苦茶なアクションを考察とルパンは本当に超人ですね。