2018年以来、目標に掲げてきた「利用の日常

「サンド」から「バーガー」への名称変更とともにメニューを増やして日常利用の強化を狙った、KFCの食事メニュー。中央から左回りに「チキンフィレバーガー」390円、「辛口チキンフィレバーガー」420円、数量限定で発売中の「チーズにおぼれるフィレバーガー」490円。価格はすべて取材時(撮影:大澤誠)

1970年、東京都町田にドムドムバーガーが誕生し、次にマクドナルド、モスバーガーなどが続々オープンし始まった、日本のバーガーチェーンの歴史。その他主なチェーンとしては、ロッテリア、フレッシュネス、ウェンディーズ・ファーストキッチンなどが挙げられる。バーガーは日本人にとって、軽食、ランチとして、また近年ではディナーとして非常に身近な食品になっている。

そして2022年10月12日、バーガーチェーンに名を連ねることになったのがKFCだ。

「サンド」から「バーガー」へ

というのは、1983年にチキンフィレサンドを発売以来かたくなに守り続けてきた「サンド」の名称を、ついに「バーガー」へと変えたからである。

同時にこれまでチキンフィレ、和風チキンカツの2種だけだった定番のバーガーメニューを5種に拡大して発売した。

バーガー市場獲得に向けたKFCの本気度を伝える、エポックメイキングな出来事だ。

今回は日本ケンタッキー・フライド・チキンに、この大きな変革の背景や狙い、今後の展開について聞いた。

サンドからの名称変更について、「大きな狙いは知名度アップ」と同社上席執行役員マーケティング部長の小室武史氏は説明する。

KFCのフラッグシップショップ、相模原大野台店。同社では客との接点の強化、withコロナへの対応から、郊外型のドライブスルー店舗、テイクアウト・デリバリー専門店舗などの拡充を進めている(撮影:大澤誠)

「KFCの本国アメリカではビーフのパティを挟んだもの以外はサンドと呼ぶ。その流れを汲み、サンドという名称を続けてきたものの、今はデメリットが大きくなっていた。

例えば検索をかけるときは『バーガー』で検索するため、チキンサンドはひっかかってこない。バーガーマーケットに本気で取り組んでいくなら、名称変更は避けられなかった」(小室氏)

1970年にチキンのお店として出発したKFCは、何といっても「オリジナルチキン」(260円)のチェーンであり、クリスマスなどイベント時にみんなでワイワイ食べるイメージが強い。

食事として利用できるチキンフィレサンド、和風チキンカツサンド、ツイスターなどもオリジナリティがあり、ほかのチェーンの商品に劣らないメニューなのだが、「オリジナルチキン」に比べると、やはりサイドメニューというか、「おまけ」のような印象があった。

ほかのバーガーチェーンでの、主食とサイドメニューの関係性とは逆なのだ。

これが、KFCにとって大きな課題だった。

利用の「日常化」が課題

例えば同社において、2018年以来経営計画上の目標に掲げてきたのが「日常化」だ。つまり、イベント時だけでなく、ふだんの生活の中で利用してもらえるチェーンを目指すという意味だ。

相模原大野台店内観。KFCでは2020年4月より店舗デザインのリニューアルを順次行っている。新しいKFCはスタイリッシュかつシックな印象だ(撮影:大澤誠)

考えてみればこれは当たり前のことで、イベント時だけ知名度が高まるより、年中日常的に利用してもらい、さらにイベントでも特別なメニューなどで訴求できたほうが、ブランドの普及という意味でも、売り上げにおいてもメリットが大きいに決まっている。

逆にKFCではなぜここに至るまで、日常化に取り組んでこなかったのだろうか。

これは推測だが、デイリーブランドとして訴求したくても、なかなかうまくいかなかったのではないだろうか。

まず、「オリジナルチキン」というKFCのアイデンティティは、ブランド力を維持する意味でもファンのためにも、ぶれることなく持ち続けなくてはならない。

しかし、メニューとしてのチキンは一般的に「おつまみ」のような位置付け。毎日の食事としてはなじみにくい。

加えて「オリジナルチキン」自体、非常に手間を要する商品のため、ほかのメニューを増やすのは容易なことではない。例えば知る人ぞ知る「オリジナルチキン」のこだわりの一つが「店内調理」だ。登録飼育農場から店舗に毎日配送される食材に、一つひとつ粉つけを行った後、高温の圧力釜でじっくり揚げる。この店内での工程で最低でも30分かかるという。

これまでサンド商品の数が限られていた理由としても、オペレーション面での制約があったのではないだろうか。このようにメニューの中で、食事メニューが「おまけ」のような位置付けであれば、日常食としての訴求は難しいだろう。

しかしこうした事情がありながらも、「日常化」を課題として掲げてからは、同社のメニューにはさまざまな工夫が見られる。

例えば2019年からは、サンドとポテト、ドリンクのセットをランチメニューとして定番で提供。また、サンド、ツイスターといった食事カテゴリーでの期間限定商品も投入頻度を高めている。2022年では2〜3カ月に1回の頻度で期間限定商品を発売。

秋に「とろ〜り月見サンド」4種で各チェーンが繰り広げた「月見戦線」に参戦していたことも記憶に新しい(ただしとろ〜り月見和風カツサンドは2016年から発売している季節限定商品)。

ただ、期間限定商品だけでは、日常利用という市場において、ほかのチェーンに比肩できない。何しろ「ランチ」にしても、KFCではつい3〜4年前にやっと始めたばかりだが、ほかのチェーンでは開業後何十年も展開してきた蓄積があるのだ。

次なる戦略は「定番の強化」

そこでKFCが取り組んだ次なる戦略が、今回の「定番の強化」というわけである。

2022年から冬の期間限定商品として登場している、チーズにおぼれるフィレバーガー。5種類のチーズをブレンドしたチーズソースと、ガーリックチーズソースの合わせづかいで濃厚な味わいに(撮影:大澤誠)

これまでのチキンフィレサンド、和風チキンカツに加えて、「辛口チキンフィレ」「チーズチキンフィレ」を展開し、「辛い物好き」「チーズ好き」の2大市場を攻略する。

さらに、これは少数派ながら、がっつり食べたいというニーズに応えるのがパティを2枚にした「ダブルチキンフィレ」だ。

注目したいのは、人気のある2つの味をしっかり押さえながらも、商品としてはシンプルな構成になっている点だ。つまり定番のチキンフィレをベースに、加えるソースによってバリエーションを広げている。メニューが増えても仕込みの手間が増えるわけではないので、オリジナルチキンを従来通り丁寧に提供しながら、メニューの多様性というニーズにも応えられる。

そしてやはり、日常化を進めるうえで「サンド」から「バーガー」への名称変更は欠かせない決断だったと言える。

前述の小室氏の言葉にもあったように、サンドという名称は知名度が低く、バーガーのように一大ジャンルを形成できていない。形状はバーガーチェーンの提供するチキンバーガーと変わりなく、場合によっては味も勝っているのに、「サンド」を名乗っているだけで損をしていることになる。

またあくまでもイメージだが、「サンド」より「バーガー」のほうがお腹がいっぱいになりそうだ。

名称の変更については社内でもさまざまな意見があったことだろう。小室氏によると「40年変わっていなかった名称ということで、社員にとってはなじみがあり、誇りに思っている社員もいたが、グローバルで見るとすでにバーガーと呼んでいる国も複数あるので、日本がサンドという名称にこだわる必要はない」という。

日本には「バーガー」という名称が一般的になる前に上陸したためサンドの名称が使われたが、最初からバーガーの名称を使用した国もあるのだろう。

名称変更、そしてメニュー拡大等の影響は実際に表れてきている。小室氏によると、バーガー全体の売り上げについては発売当初予想の2倍に、その後落ち着いてからも1.5倍程度になったという。これにはいくつか理由がある。

まず、アンケートなどで明らかになったことだが、KFCにバーガーがあることを知らなかった層が購入するようになった。

さらに、商品数が増えたため、メニューに占めるバーガーの面積が増え、訴求しやすくなった。

定番商品のラインナップはチキンフィレバーガーをベースに、ソースの違いでアレンジ。写真は辛味の中に旨味が感じられてクセになる、辛口チキンフィレバーガー(撮影:大澤誠)

新味の発売ももちろん効果が高い。とくに「辛口チキンフィレバーガー」の売り上げはバランス的に、想定の2倍程度。

また新しいメニューが増えたことにより「やっぱり次は定番が食べたい」との購入動機につながり、全体が底上げされている状況だそうだ。「バーガー+チキン」の組み合わせで購入する人も増え、「オリジナルチキン」の売り上げも伸びている。

数字で見ると、2022年10月の全店売上高は前年比117%。2022年の5〜6月までは90〜100%と前年を下回る月が多くなっていたので、リニューアルが大きく影響していることは間違いないだろう。

変わらない「チキンフィレバーガー」

気になるのが、定番の強化としながらも、チキンフィレバーガーの商品自体は変わっていない点だ。

チキンフィレバーガーは名称変更に際し商品内容は変えていないが、何度でも食べたくなる安定の味わいで勝負(撮影:大澤誠)

ちなみにチキンフィレバーガーには、チキンの胸肉に「オリジナルチキン」と同様の11種のハーブ・スパイスで味つけをし、圧力釜で揚げたものを使用している。

「オリジナルチキン」のレシピ自体も本国での創業以来守られていることもあり、チキンフィレバーガーの製法も簡単に変えるわけにはいかないのかもしれない。

今後同社では、定番のバーガーを継続的に販売しつつ、期間限定商品を投入していくことで、より「日常化」戦略を本格化させていくという。「オリジナルチキン」もその戦略の重要な要素だ。例えば「オリジナルチキン」の訴求をより高めていくために「30%OFFパック」などのバリュー商品を定期的に発売する。

また、夏の定番となっているのが「レッドホットチキン」(280円)だが、2022年12月からは冬の限定商品として黒胡椒の利いた「ブラックホットチキン」(280円)を数量限定販売(価格は取材時)。このようにオリジナルチキンによるブランド強化も加え、全力でバーガー市場に乗り出したKFC。1位マック、2位モスのバーガーチェーン勢力図がどう変わるか、興味深いところだ。

東洋経済オンライン記事引用

 

ケンタッキーの名称変更も、利用者を増やす為の涙ぐましい努力を実感する一方で、フライドチキンだけでは売れない事と、サンドはサブメニューと思われた事にも一因があるのですね。