練習会場の窓を震わす生声の圧力に圧倒され、
先輩方の歌うブラームスの哀歌に魅せられた1年生は、
いつしか練習そのものが楽しみになっていました。


そしてダメ押しの夏合宿で畑中マジックに完全にハートを
持っていかれた私は、もはやこの合唱団に所属しないことなど
考えられなくなっていました。


そして秋も深まり、定期演奏会がいよいよ近づいてくると、
ステージに上がるための最終試験が待っていたのです。



男声合唱はトップテノール、セカンドテノールのテナー系と、
バリトン、バスのベース系、計4パートで構成されています。

その4パートのパートリーダーそれぞれの正・副(チーフ・サブ)と
学生指揮者のチーフ・サブは、合わせて「技術系」と呼ばれ、練習の
計画を立てて団員の演奏レベルを上げる責任者です。略して「技系」。

一方、団の運営そのものに携わる役職、責任者、内務、ライブラリアン、
ステージ・マネージャー(ステマネ)、渉外、会計等は「マネ系」と
呼ばれていました。

やはりそれぞれに4年生のチーフと3年生のサブがいるわけですが、
サブは1年間チーフと共に行動して、チーフを補佐しながら仕事を
覚えてゆきます。

サブは、4年になって団を引き継ぐ時の準備をしてゆくわけですね。


さて、話がそれましたが、本番のステージに立つためには、
楽曲の練習、曲の仕上げに責任を持つ「技系」が主催する
オーディションを受けて合格しなければなりません。

暗譜は当たり前、最低限の条件です。
加えて、畑中先生の練習でご指導いただいた表情や注意を守って
歌えているか、微に入り細に入りチェックを受けるのです。

各パート1人か2人でのアンサンブル。
要するにパートリーダーの前で1人ずつ、マン・ツー・マンで
歌わなくてはならないわけです。

そのオーディションを受けるために、秋も深まったとある日曜日に
都内の某幼稚園へと向かうわけです。



定期演奏会は全部で5ステージ。
各ステージ20分ぐらいの演目ですから、
全部で100分ぐらい歌いっぱなしのボリュームがあります。

それを譜面を見ないで歌わなくてはなりません。
オーディションは、各ステージごとに日を決めて
何回かに分けて行われるわけです。


全部合格すれば、全部のステージで歌うことができます。
合格しないステージには乗ることができないのです。

なので再オーディションや個別オーディションを受けて
なんとかオンステできるようにがんばります。

その他にも、練習の出席率が悪いと「塾歌」を歌わせて
もらえないとか、様々ペナルティがあったりしました。


あ、「塾歌」とは、いわゆる学校の「校歌」のことです。
福澤諭吉先生が開いた「義塾」ですから「塾歌」なのです。

大学公認の学生団体ですから、演奏会の一番初めに
塾歌を歌うわけですね。

かわいいでしょ?(笑)



まぁしかし、これほど真剣にものを覚えたという記憶は、
大学受験のときでさえなかったと思えるほどにがんばって
暗譜をしました。(笑)

そして、オーディションでは精一杯声を張り上げて
「歌えます!」ということを1年生なりにアピールしました。


実は、忙しい上級生は暗譜ができていなかったりすることも
多々あるのです。
そんな時はチャ~ンス♪ 

相対的に1年生の出来がいいような印象を持ってもらえれば
しめたもの♪
一発通しも夢じゃない!!!


一回のオーディションで合格することを「一発通し!」と
言って、これは団員にとっては超嬉しいことなのです。
1年生で「一発通し」は、これは鼻が高いです。(笑)

それにしても「技系」は、日曜日の朝から晩まで、団員の
気持ち悪いハーモニーにつき合っているのだから大変です。
あまりに出来が悪いと学生指揮者がブチ切れることもあります。

団員は、こまめに差し入れなどして技系に気を使いますが、
それがオーディションの合否に影響があったかどうかは、
今もって不明(笑)


さぁそんな悲喜こもごものオーディションもいつしか過ぎて
いよいよ本番当日を迎えるのです・・・




つづく