大学時代、男声合唱団に所属していた私は、
1年生の冬、定期演奏会の初ステージを踏みました。
その時に感じた恐怖に至る道筋をたどっています(笑)
普段の練習は、都内随所の「幼稚園」を曜日代わりで借りて
行っていました。
せまい教室に100名近い団員が集まり熱唱すると、
木造校舎の窓ガラスがビリビリ震え、先輩方の「音の圧力」に
最初の頃一年生は皆圧倒されていました。
我が合唱団は、先輩方が受け継いできた畑中先生の求める
「声楽的な発声」を身につけるため、「響き集め」という
練習を寝ても覚めても行います。
ちょうど、楽器の習い始めの人がひたすらリードを吹く練習を
するように、歌の場合も声帯を震わせ、その振動を鼻腔(びくう)に
集めて共鳴させ増幅する訓練をひたすらやるわけです。
特に1年生は、練習会場で先輩との実力差を思い知らされますから、
道を歩けば「ミーミー」、トイレに入っても「ミーミー」、昼休みは
飯も食わずに音楽練習室で「ミーミー」と、響き集めに勤しむのでした。
まぁ、ミーミーやってる我々を傍から見れば「変なヤツラ」にしか
見えないわけで、そんな「冷ややかな視線」に耐えられずに退団してゆく
人たちはもちろんいました。
テニスサークルか何かに入って、楽しい学園生活を謳歌したいと(笑)。
しかし私を含めて残った1年生は、ともかくあのビリビリと空間を震わす
「人間の生の声の音圧」、しかも美しい「和声の中に調和している」先輩方の
ハーモニーを浴びて、心底その響きに酔ってしまったのです。
気持ちよすぎる・・・
「音の海」に浸かる感じ、っての?
「音浴」だわね、こりゃ。
足湯なんてもんじゃない、全身浴。
魂が揺す振られる快感・・・
魔法にかけられたかのように残った1年生は、
ミーミーと鼻腔共鳴を鍛えながら、やがて夏合宿に臨むことになります。
しかし、その夏合宿こそ、あの畑中先生と直接対面する場であるとは、
そしてそのことの意味が、まったくわかっていませんでした。
つづく