新型コロナの影響が、過去に例のないスピードで拡大している。自粛、休業、感染リスク……今は全国民が何かしらの影響を受けている状況だが、なかでも大きな被害を受けているのが、以前からギリギリの暮らしを続けていた生活困窮者たちだ。元から脆弱だった生活基盤が、一気に崩壊しかけている。
◆コロナで痛感した正社員と非正規雇用との格差
「3月下旬のある日、起きたらのどの痛みと唾を飲み込むことができないくらいの息苦しさを覚えて。咳や微熱もあるので『まさか』と思ったんです。ひとまず職場に欠勤願いの電話をして、様子を見ようと思ったんですが……」
そう話すのは、関東地方郊外のベッドタウンで一人暮らしする小藪夏美さん(仮名・34歳)だ。現在はIT企業の非正規社員として働いている。ただ社員とはいえ給料は時給制で、手取り月収は20万円以下。貯金もままならない暮らしだが、「これといった趣味もないので、最低限の生活費でもなんとか暮らせていた」という。
しかし、新型コロナの影響によって、そのバランスが崩れた。
「最初にかかりつけ医に診てもらうと、診断は喘息で薬を処方されましたが、服用してもまったくよくならなくて。その後も症状が続いたので、国が設けた相談窓口に電話したんです。全然つながらず、やっとつながっても、海外渡航歴や感染者との接触がないので検査はできないと。感染しやすそうな場所はずっと避けていたので、説得力がなかったんだと思います」
ただ、その後も状況は変わらず、37℃ほどの微熱が1週間続いた。そこで再度相談窓口に電話すると、今度は「別の病院でセカンドオピニオンを求めては」との対応が。訪ねた別の病院では採血、X線、CTなど一から検査をしたところ「リンパ球の数値と肺の影から新型コロナ感染の可能性がある」と伝えられたという。
「それなのに『自分で来院できるのだから重症ではない』と、PCR検査をする段階ではないと診断されてしまいました。結局は医療費がかかっただけで、倦怠感はずっととれないままです」
◆正社員は有休なのに私は欠勤扱い。同じ職場なのに不公平すぎる
体調不良を感じて以来、「万が一、感染していたらオフィスが封鎖されるし、会社にとんでもない迷惑がかかる」と、小藪さんは出社を自粛。しかし、会社側からは休暇扱いにされず、ひたすら欠勤扱いになるばかりだという。
「2週間以上も休んでいるから来月の収入はほとんどありませんし、貯金もひと月分の生活費しかなかったので、そろそろ限界です。しかも、会社からは『出社再開後には雇用契約を見直したい』という連絡がきたんです」
要は解雇通告だという。
「コロナショックで会社の業績は落ちる一方なので、整理しやすい私のような非正規から切りたいんだと思います。一方で、同僚の正社員は熱が出たら会社から自宅待機を命令されて有休扱いになるし、今はテレワーク中心で働いて『ほぼ休みと一緒』なんてLINEが届くんです。
同じ職場なのにあまりに不公平だと思う。総務部からは『次の職場を探すためにもまずは早く治してください』と言われました。この状況では就活なんてうまくいくはずもないのに」
通院や買い出しなどわずかな外出時間を除けば、部屋で自分が使えそうな補償制度を調べる日が続いている小藪さん。さらに今はうつ病の症状も出て、向精神薬も処方されているという。
「病気の検査をこんなに渇望する日が来るなんて考えもしなかった」という嘆きには悔しさがにじみ出ていた。
<取材・文/週刊SPA!編集部>
―[コロナ貧困の絶望]―
日刊SPA!