海流ついに見えねど | 脚本家/小説家・太田愛のブログ

海流ついに見えねど海流と暮らす  金子兜太

 

詞書に「下北半島尻屋崎三句」とあるが、実際に金子さんが尻屋崎の岸壁のような場所に立たれてこの句を詠んだのかどうかはわからない。だが、この句を読むと、荒れる大海原を前に、じっと目を凝らして立つ金子さんの姿が思い浮かぶ。

「ついに」の一語には、そこに海流を見きわめるべく目を凝らしてきた執拗な時間があり、同時にそのような行為を促している、見えない巨大な力への覚醒した懐疑精神がある。

戦時下に青年期を過ごし、トラック諸島で敗戦を迎えた金子さんらしい一句だと思う。