国交省審議会資料に見る日本の将来 | 政治とメタルと網膜剥離

国交省審議会資料に見る日本の将来

国交省国土審議会の長期展望委員会にて、良質の資料が事務方から提出されている。
第3回長期展望委員会・配付資料

お時間のある方はぜひ資料4の中間とりまとめ案本文や図表をご覧いただきたい。気候変動なども含むやや総花的な資料ではあるが、少子高齢化の進展によりどのようなことが今後起きていくかについて、豊富なデータを元に具体的に述べられている。

例えば資料4の図表(容量が大きいので注意されたい)の38ページ目では、要介護者数の推計が行われている。この推計では、要介護者は2035年には現在より7~80%増加するのだが、この間総人口は減少し、生産年齢人口にいたっては▲23%の大幅減となる見込みである。これについてグラフ化すると以下のようになる。
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現在要介護者は総人口に対しては1:25、生産年齢人口に対しては1:16となっているが、これが2035年になるとそれぞれ1:12、1:7となる。7人の生産年齢人口で1人の要介護者を支えることになるのであり、支える人口はその先も減少を続ける。

将来においては、現在以上に老老介護が必要不可欠となるに違いないが、60代ならともかく70代後半以降にもなって更に夫、妻の面倒を観るのは体力的に非常にきつい。また、そもそも夫婦両方が存命とは限らない。その場合、子供か地域、自治体に負担がのしかかってくることになる。

この推計は国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2006年12月に公表した推計結果を元に算出されている。実際には2007~2010年の出生数についてはこの推計より若干多く推移しているが、今後出産の中心となる世代(20~44歳)が大幅に減少していくため、出生数の減少傾向は今後も大きくは変わらないと推定される。

合計特殊出生率が現在のように1.3前後で推移するようであれば、ゆるやかに衰退することすら困難なのである。また、この変化は地域によってはより激越な形をもって出現する。

図表の60ページ目にあるが、やはり合計特殊出生率はフランス並の2.0程度の実現を目標にすべきである。それでも人口は減少するが、90年後も半減には至らない。このままでは身近な介護はもちろんのこと、生産活動に従事する人口も大幅に減少し、若年人口の減少によりイノベーションも起きづらくなる。結果として国の根幹である国防力まで落ちるのである。

この事が分かっていない者がこの委員会にもいる。議事要旨の中に、以下のような発言がある。

「人口減少はアドバンテージ。食料や環境への負荷も減る。団塊の世代がいなくなると人口構成もバランスが良くなる。フランスは出生率は上がったが、結果として国民負担が生じている。無理をして、フランス並みに出生率を上げる必要はない。また、そのためにスウェーデン並みに国民負担率を上げる必要もない。むしろ横断的思考のできる人材育成が必要。クリエイティブなシナリオを考えてほしい。」

団塊の世代がいなくなると人口構成のバランスがよくなる、ということはない。現在30代後半の団塊ジュニアの前後も各歳200万人前後と多い上に、それ以降の世代が今日にいたるまで減少傾向にあるからである。この方はいかなる識見を持ってこの委員会に参加しているのか?クリエイティブなシナリオ云々については嗤うしかない。恥ずかしげもなくこのような発言をした者が誰か、是非公表していただきたいものである。

少子化対策は国の根幹の維持のために必要である。そのためにはこれから生まれる子だけでなく、既に産まれている子や親に対しても支援することで、これから産もうとしている世代に将来の展望を持たせることも必要である。それは子供手当程度では実現できないが、それを廃止しようなどというのは論外である。むしろ子供手当は将来更に拡充しつつ教育の無償化の推進や保育所整備、ワークライフバランスの強制力を持たせた形での推進を同時に進めるべきである。その上で教育の質の向上も必要だが、絶対数が圧倒的に不足していてはもとも子もない。

これは財源の問題ではない。日本の将来の存亡に関わる問題である。