「ハスキル人」(高木彬光、新潮文庫)
こんにちは てらこやです
不定期連載「えっ、あの人がこんなものを!」、シリーズ第2弾をお送りいたします。
はじめから偏見に満ち満ちたことを書きますけど、ミステリを書く人というのは生真面目であるに違いありません。それを覆すべくふざけようにも、「しっかり」ふざけてしまうような人間です。
なにせミステリではけじめをつけることが重んじられる。謎は解かれなくてはならない。膨らんだ不思議は収束させなければならない。火をつけたらきちんと消す。当たり前のことをあたりまえのようにやる。つけっぱなしでどれだけ燃えるか、きゃっきゃっ言いながらさらに火を足し朱鷺の声あげるSF作家とは違います。
真面目で、技術者的な人が向いているのでしょうね。あるいは禁欲的といってもいい。ミステリ作家のエッセイや評論を読むと、それがどんなに軽い語り口で書かれていたとしても、信仰告白に似た、定められた掟への献身を感じずにはいられません。
高木彬光はまさにミステリー作家です。決して器用とは言えない文章ですが、あるべき小説をあるべき形で書きます。最も有名なミステリはもちろん、法廷ものも、邪馬台国をめぐるものも、さらにはノストラダムスの研究までもが、綿密な考察と論理のうえに書かれています。それはあらゆる細部にわたって作者の恣意の届いた、プロダクツと呼ぶにふさわしいものなのです。
そんなあまりにミステリ的なミステリ作家が、SFに手を出すとどうなるのか。膨大な知識や知能を、幼児的な精神に託すことができるのか。
できません。
定義にもよるのでしょうが、それは私たちの多くが望むSFではありません。道具立てだけを見るなら「ハスキル人」はSF的でしょう。脳髄だけを摘出して地球に飛来したハスキル人。彼は発見者の肉体にとりつき、優れた科学的知を地球に伝えるために奮闘する……という話なのですから。
しかしそこには、不思議が連鎖膨張し、しまいには臨界を越えて世界を一変させてしまう、そうしたおもしろみはありません。SFというよりは、ガリヴァー旅行記的な文明批評といった方がよいでしょう。
よほどの高木彬光フリーク以外にはお勧めしません。けれども、てらこやはこの生真面目さを、こころから愛しているのですよ。
リンク:「えっあの人がこんなものを!」第1弾
ハスキル人 (角川文庫) | ||
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