うつと読書 最終回 「孤独と不安のレッスン」 | ナメル読書

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時にナメたり、時にナメなかったりする、勝手気ままな読書感想文。

「孤独と不安のレッスン」(鴻上尚史、だいわ文庫)


こんにちは てらこやです。


半年以上掲げてきました「うつと読書」という看板ですが、今回で下げさせていただきたいと思います。理由は簡単、最近書いている内容とタイトルとの乖離がひどくなったことと、自分自身にとって、この題名が少し重いなと感じるようになってきたからです。


「うつに効く読書を紹介する」と、あたかもうつに悩む方に向けて書いているかのような大見栄を切ってはじめたのですが(もちろん始めた当初は自分自身の志もそうであると意識の上では信じていたのですが)、実際には自分自身に向けてのメッセージではなかったのかと思います。ある時は強い口調で前職場を責め、ある時は自己慰撫にふけり、ある時は自己批判を演じる。それによって自分自身を少しでも対象化し、自己治療を試みていたのでしょう。


しかし、そうした作業自体にも飽きがきて──それはつまりおかげさまで病状の回復が行われてきたということですが──関心は自己治療的な文章を書くことよりも、純粋に本と戯れることに移っていきました。「うつと読書」というタイトルの内、「読書」の比重がどんどんと大きくなっていったのですね。


現在の自分が、これまでの個人的な経験に照らして、現在うつと診断されている方、あるいはうつではないかと疑われる諸症状(不眠、過食あるいは拒食、感情の抑制不能、判断力の減少、性欲の減退等々)に悩んでいる方にアドバイスすることが許されるなら、次のように敢えて言いたいと思います。


今すぐに医者から薬を処方してもらい、それを指示通り飲むこと。


これに尽きると思います。


人間は案外と物質的な存在です。薬ひとつで簡単にさきにあげた苦しみが軽減します。もちろん物質的な刺激によって、簡単に自身が変化してしまうことにある種の本能的な怯え、警戒心を感じてしまうことは自然なことです。賢明で、自分自身を大切に思っている方ほどそのように感じるかもしれません。


しかし、さきにあげた苦しみを延々と引きずり続け、神経をすり減らし続けた結果待っているのは、なにも考えられなくなること=自己の不在であり、さらにそのさきにあるのは生命の喪失です。自分を大切にするも何もありません。当たり前の話ですが、死んでしまっては元も子もないのです。しかし、この病の怖いところは、この当たり前のことがいつの間にか認識できなくなってしまうことなのです。


自分自身病を患ってから、うつ病に関する書物を幾種類か読みました。近年処方される薬は副作用もずいぶんと軽減され、安全性も増していると多くの本では強調しています。しかし、ぼくは医学者でも薬学者でもないので、それを自分で裏付けることはできません。薬が薬であり、毒物の一種である以上、それを飲まずに済んだひとに比べて後々の健康状況に差が現れるのかもしけません。お前責任とれんのかと言われれば、とれませんとしか言えません。


けれども、ぼくがやはり強調したいのは、薬は飲んだ方がいいということです。これは単に個人的な経験に基づいたアドバイスです。うつ病は単に精神の危機ではなく、生命の危機です。直前に迫った生命の危機に対しては、強引にでも回避すること、これが必要であるとぼくは思います。薬の力を使って眠ること、薬の力を使って不安を和らげること、それらによって心身を休養させ、自分自身を取り戻すこと、これが最優先されるべきだと思います。


徐々に体力が回復し、意識がはっきりとしはじめたとき、ぼくは自分自身の辿ってきた過去から続いているはずの未来へのレールがぷっつりと切れているような心持ちがしました。自分自身がこれからどこへ向かうのか、そもそもどこへ向かいたいのか、それが分からなくなった、というよりもそうした生き方に関する問題がようやく提起されるようになりました。


この時、問題は医学上のそれから離れます(もちろん投薬は続けていますが)。そして、ぼくの場合、この問題を考える上で有効なのが読書だったわけです。ぼくは現在、本を読むことによってこうした問題に取り組み、あるいはこうした問題から一時的に逃避しています。


おそらくひとによって、なにがこの、生き方の問題を考える上で貴重な示唆を与えてくれるかは異なるでしょう。方法は色々あろうかと思います。ただ、ぼくにはどうやら本が性に合っているようなので、その効用のようなものを紹介しようとしてきました。


ただ、今後はすこしばかり「読んだらうつに効く」という縛りをとっぱらって、もう少し自由に本と戯れたいと思います。


最後の置きみやげといってはなんですが、ぼくがこの問題と取り組むときに、今でも非常に有益な示唆を与えてくれる本を最後に紹介したいと思います。


それは、鴻上尚史さんによる「孤独と不安のレッスン」という本です。もはや要約すらするスペースもないので、詳しい内容には触れませんが、以下に引用する言葉はぼくの何度かの危機を救ってくれました。


「大丈夫。現実に傷ついても、それだけでは死にはしないから。傷ついたことがショックで死んだ人はいないんだ。死ぬのは、傷ついた後、『ありたい自分』が『今ある自分』に文句を言い続けて、『今ある自分』がもう生きてる意味はないって、自殺を選んだ場合なんだ」


次回より、看板をかけかえて、新たにブログを刻みたいと思います。非常に斬新で、ファッショナボーで、洒落たタイトルとなることでしょう。


乞うご期待。


孤独と不安のレッスン (だいわ文庫)
孤独と不安のレッスン (だいわ文庫) 鴻上 尚史

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