うつと読書 第33回 「焚火」 | ナメル読書

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時にナメたり、時にナメなかったりする、勝手気ままな読書感想文。

「焚火」(ジャック・ロンドン、瀧川元男訳、ポプラ社)


こんにちは てらこやです。


昨日、山に登りました。


「大丈夫、大丈夫。ぜんぜんたいしたことないから。山に詳しいひとがリーダーで、あとは初心者の子ばかりだから」と、およそ1週間前に誘われました。


はじめ断りましたよ。第一に、てらこやはこれまで登山経験がないから。第二に、翌日(つまり本日、10月9日のことです)仕事があってしんどいから。第三に、知り合いゼロの集団の中に入って登山なんて、まるで転校初日がよりによって遠足だった転校生みたいで、人見知りにはつらいから。


それでも「大丈夫、大丈夫」と押し切られ、結局山に登ることになりました。登山前日、あの名著「冒険図鑑」(さとうち藍、福音館書店)のことを思い出しながら、とりあえず新聞とガムテープと軍手は必須だなと荷物に加えました。


ええ、登りましたよ。標高およそ1,200mの、全国的にも有名な某山(ずぶの素人のてらこやでも知っていたので有名なのでしょう、きっと)に。


「初心者でも大丈夫」。この言葉からてらこやが想像していたのは、こんな山道でした。


緩やかでよくならされた坂道の両脇には木々草花が茂み、「あら、あそこで鳴いているのはなんて鳥かしら、アハハハ」なんて談笑しながらのんびりと歩く。日の光は柔らかく、時折優しく通り過ぎる風がからだをくすぐる。そして、マイナスイオンの大量吸収。


……マイナスイオンなんて吸収してる余裕なかったっす。これでもかと現れる急斜面、岩肌、岩肌、岩肌、時折砂利道、鎖場、鎖場、岩、岩、岩。こんなの「道」じゃねえ、たんなる崖の崩落現場をよじ登ってるだけだろうが、と話をもってきた相方を睨みつけましたが、その相方も唇を真っ青にしていました。


でも、山を登っていると自然と声をかけあうわけで(もちろん談笑じゃありません。「そこ滑るから気をつけろ」とか、「次の開けたところで小休止」とか、「ファイト、いっぱつ」とかです)、人見知りのてらこやも比較的早くグループに馴染むことができました。久々に、人間不信モードから人間ってけっこういいじゃんんモードに移れました。うん、山はいい。


あと、山に登ったときの達成感もよかったです。その某山はロープウェイで往復できるので山頂はかなり整備されています。そのため、山頂付近に到達したときには、険しい山道からいきなりコンクリ道路に出て、「あれ、あれれ、これで終わり?」という感じ、正直あっけない印象がありました。けれども、帰りのロープウェイにて、これまで登ってきた行程を俯瞰したとき、自分の足でこれだけの距離を歩いてきたのかと、じんわりと温かなものがわき起こってきました。これもここしばらく味わったことのない感情でした。うん、山はいい。


あとあと、山頂で食べたおにぎりと、コンロで煮立てた豚汁がとってもおいしかったです。久々にからだが真から食物を欲しているのを感じられました。うん、山はいい。


もうずいぶん長文になったので、これで今週はさようならでもいいんですけど、一応読書ブログなので本を紹介しましょう。


山に関する本ねえ、新田次郎の本は今手元にないし、もう1冊大好きな本があるけれどもこれはとっておきなので紹介したくない(本好きなら分かるでしょ?本当の本当に好きな本は独占したいのです)。


ということで思いついたのが、ジャック・ロンドンの「焚火」。正確に言えば山じゃないけど許してください。


凍てつく森林地帯をゆくひとりの男と一匹の犬。零下はすでに50度を下回り、耳元では土地の長老の忠告が──ひとりではここを抜けることができないという忠告が呼び返される。それでも仲間の待つキャンプ地へと向かう男ですが、とうとう雪と氷に覆われていた水地へと踏み落ちてしまいます。感覚を失い自由に動かすことのできない手で枝をかき集め、焚き火を起こします。とにかく体を暖めなければ、待っているのは死だけです。


しかし、ようやく燃え上がり始めた火は、不意のアクシデントによって消えてしまいます。それでも、火を起こさなければなりません。とにかく、火を。


「朽木の屑や緑の苔が小枝にくっついてくるのをできるだけ歯で食いちぎる。注意深く、そしてぎこちなく、男は火を大事に育てていった。命の綱だ。消してはならん。身体の表面から血の気が去って、胴震いがはじまり、ますますぎこちなくなる。(・・・)だが懸命の努力をしても、胴震いによってさまたげられ、小枝は手のつけようもないまでに散らばってしまった。一本一本がぽっと煙をあげて、消えていった。火の供給者は失敗したのだ」


「うん、山はいい」とお気楽ばかりいっていられないのが自然といったところですかね。



てらこやの「うつと読書」

山頂でも読書を忘れない勤勉なるてらこや氏。



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