ヴァンスタイン軍及びブリクテン王国軍、ネビロス軍等諸勢力の加勢により一時優勢に立った西軍だったが、クルセイダー騎士団の大軍が東軍に味方したことで再び劣勢に追い込まれていた。
更に追い打ちをかけるように、西軍の中核の一つと言えるバルトハイム帝国軍の一部部隊が戦場を離脱してしまった。離反したマルモン王国を討伐し後方の憂いなからしめんという軍事的判断に基づく行動であり、決して誤った動きとは言えなかったが西軍全体の不利に働いたことは否めなかった。
事態を重く受け止めたリチャード王は、自ら軍船に乗り込み新たな味方を求めて密かに出航した。
七王国から派遣された”王の盾”及びコロナ王国の親衛隊などごく僅かな護衛を伴ったのみであり、当然ながら寄せられた家臣団からの反対を押し切っての行動であった。
後に残された西軍は副将”クリミアの老蛇”ベルモント=グラフトンが指揮を委ねられた。当初より参戦している勢力としてはクリミア公国の他にバルトハイム帝国軍がいる。国力を鑑みると本来はバルトハイム帝国軍指揮官アルフレートが後を任されてもおかしくはなかったが、リチャードが先の独断に対するアルフレートへの疑念を拭えなかったことからの人選であった。
だがクリミア公国に全軍を託したことは、思わぬ効果を生んだ。ベルモントの姪にあたるタニア・グラフトンは西軍将兵の間を精力的に駆け回り、全軍を鼓舞した。
西軍には多くの女戦士が参戦していたが、それらの女性たちとはまた違った高貴な雰囲気を放つ姫君の激励。これを受けて、連日の激戦に倦み疲れた将兵の瞳には再び闘志が宿り、その大歓声は東軍にまで届かんばかりだった。
このタニア・グラフトンの行動は後にクリミア公国で内乱が勃発した際、周辺諸侯が大挙して彼女の窮地に駆け付けるという結果に繋がることとなる。
ところで8日目のこの日、両軍の間には開戦以来初めてとも言えるほどの奇妙な平穏に包まれていた。
西軍はリチャード王の不在を隠すため守りを徹底的に固めていたこともあるが、一方の東軍側にも動けない事情があった。
クルセイダー騎士団をはじめとする諸勢力の来援により力を盛り返した東軍だったが、急激な兵力の増大により物資の不足が発生したのだ。東軍側の兵站担当者は決して無能ではなかったが、日々兵力が増え続ける─それも日によって加わる兵力には大きな差がある─大規模な会戦において、完璧な補給計画の遂行を要求する方が無茶というものだった。
東軍は補給線の再編成を図るとともに、当面の物資を確保するため各地に小規模の糧秣徴発部隊を派遣した。特にRiMN連合王国軍はこれを奇貨として自国に反抗的な村を優先的に襲撃し、物資を挑発するとともに西軍への流入を防がんとした。
これら諸隊の活動は一定の効果をあげ、東軍はひとまずは食いつなげるだけの物資を手に入れることに成功したのだった。
だがリチャード王もまた、各地で味方を得ることに成功していた。
まず、ナルニアの民を通じて以前より交渉を続けていたドワーフ族が、リチャード王直々の訪問を受けてついに加勢を承諾した。
このドワーフ族は移動式鍛冶公房と呼ばれる機械を有しており、ドワーフ製の優れた武具が西軍に提供されることとなった。加えてドワーフ族は強兵として名を馳せており、数は少ないものの心強い味方であった。
獅子の紋章の王国もまた、リチャード王の訪問に驚愕するとともにその勇敢さに感じ入り、来援を約束した。
充実した装備を有する軍勢であり、西軍の戦力を増強してくれることは間違いなかった。
また異邦より流れ着いたと称する一団も西軍に加勢を申し出た。
彼らは慣れぬ土地に困惑していたところを偶然通りかかったリチャード王に救われ、その恩義に報いるために参戦を決意したのだった。だが不思議なことに、東軍側に”灰色の騎士”ニスト率いる軍勢がいることを知ると、その部隊とはできる限り離れた戦場で戦いたいと懇願した。リチャード王は戦場のことゆえ確実な約束はできないが、できる限り善処する旨の答えを返した。
他に、偶然ともいえる事情により西軍側についた勢力も存在した。
魔帝を名乗る者が派遣した魔族たちが西軍陣地を訪れ、助力を申し出たのだ。
不在のリチャード王に代わりベルモントが応対しようとしたが、魔族たちはリチャード王との交渉を求め、王の軍船を追うこととなった。
また旅の戦士の一団も突如西軍陣地に現れ、そのまま陣に居座った。
目的ははっきりしないながらも、いずれも勇猛な戦士ぞろいであることから、とやかく言うものはいなかった。
図らずも束の間の休息となった日だったが、水面下では様々な思惑が蠢き、両軍ともに必要なものを手に入れたことからも翌日は激戦となるであろうことが予想された。