【SS】『魂の回廊』~ヴィジョン・クエスト~ 1 | 暗都魎夜の銀誓館日誌

【SS】『魂の回廊』~ヴィジョン・クエスト~ 1

 これらの断片が何の意味を持つのか、理解出来る者はいないだろう。

 だが、これは暗都魎夜という少年が目にした光景。

 彼が見た断片の記録である。

 

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「将軍、異形の軍勢が……そこまで、攻めて参りました……!」

 斥候に出していた鋏角衆が息も絶え絶えに報告をして来た。全身に浅からぬ怪我があり、彼らの戦いが如何に苛烈だったかを示している。彼は相棒として蜘蛛童を連れていた、しかし、今はいない。

 私は頷くと、鋏角衆の彼を癒すよう巫女に命じる。生き残れるかは分からない。だが、最善を尽くしたい。

 そして、今何よりも必要なのは、迫り来る異形の軍への対処だ。話を聞く限り、砦の兵で勝てるような戦力ではなく、増援も間に合わないだろう。このままでは敗北は必至だ。

 女王より与えられた「勇」の名。それも今は虚しく響くのみである。

「将軍……」

 副官が決断を待っている。

 しかし、決して急かしたりはしない。

 彼にもこの決断の難しさは分かっているのだ。

 戦っても勝機は無く、動かずにいても蹂躙されるのみ。

 そんな中で、何が出来るというのだ?

 

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 銀色の雨が降る。

 今日もどこかで戦いが起きている。

 出来れば知らない顔をしてしまいたい。ただ、それにはこの嵐獅丸の名前が邪魔をする。

 こんな役割、望んで背負ったわけじゃないのに。

 そう言って胸元のさらしを見る。

 嵐獅丸が女では格好が付かないと言われた。正直、ムチャクチャな話だと思う。なんでそんなことのために、人生を決められなくっちゃいけないんだ。

 でも……ぼくがそれに逆らおうとしていないのも事実。

 それとも、以前出会った月帝姫――そっちも名前に反して男の子だったけど――彼なら話を聞いてどう思うだろうか?

「阿羅多様! 夕餉の時間ですぞ!」

「分かった、今降りるよ」

 木の下から家臣が呼びかけてくる。それにつられてお腹がくーとなる。嵐獅丸だってお腹は空くんだ。旋剣の構えでも使って派手に降りようかとも思ったけど、また「能力を妄りに使うな」とか怒られるだけだから止めておこう。正直、能力の使い道なんて「そんなもの」程度がふさわしいと思うのに。

 でも、多分戦いは近いんだろうな。

 このまま、何も無ければ良いのに……。

 

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「ひゃっはー! 水だ! 食料だ!」

「さすがは、『赤い風(サンタナ)』の旦那だ。見ろよ、あの用心棒。ほうほうの体で逃げやがった」

 照りつける太陽の下、俺様は奪い取った水を全身にかける。

 気分が良い。

 やっぱり、口うるさいジジイ共の所をおん出て正解だった。

 雷の力を生かすには云々とか言っていやがったが、要はこれが一番楽な使い道だろ。

「俺に言わせりゃな、魔剣士なんてカモなんだよ。あいつ等は決まって最初に構えるから、そこに俺様がビシャンとやってやりゃ、一撃よ」

 おーっと声が上がる。そうそう、これだよ、これ!

 たしかに、強い能力者連中も結構いやがる。

 そんな中で飯食って行くのは正直大変だ。

 ただ、こうやって自分の力でものを手に入れるってのは、正直悪くねぇ。

 明日どうなるのかなんて、先のことは分からない。

 だから、俺様はこうやって、全力で今を楽しむだけだ。

 

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 これらは忘却期の戦士達。

 魎夜はそのどれでもあり、どれでも無かった。

 ただ、それを眺めていた。

 自分の為すべきことを問うために。