【SS】『魂の回廊』~ヴィジョン・クエスト~ 1
これらの断片が何の意味を持つのか、理解出来る者はいないだろう。
だが、これは暗都魎夜という少年が目にした光景。
彼が見た断片の記録である。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「将軍、異形の軍勢が……そこまで、攻めて参りました……!」
斥候に出していた鋏角衆が息も絶え絶えに報告をして来た。全身に浅からぬ怪我があり、彼らの戦いが如何に苛烈だったかを示している。彼は相棒として蜘蛛童を連れていた、しかし、今はいない。
私は頷くと、鋏角衆の彼を癒すよう巫女に命じる。生き残れるかは分からない。だが、最善を尽くしたい。
そして、今何よりも必要なのは、迫り来る異形の軍への対処だ。話を聞く限り、砦の兵で勝てるような戦力ではなく、増援も間に合わないだろう。このままでは敗北は必至だ。
女王より与えられた「勇」の名。それも今は虚しく響くのみである。
「将軍……」
副官が決断を待っている。
しかし、決して急かしたりはしない。
彼にもこの決断の難しさは分かっているのだ。
戦っても勝機は無く、動かずにいても蹂躙されるのみ。
そんな中で、何が出来るというのだ?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
銀色の雨が降る。
今日もどこかで戦いが起きている。
出来れば知らない顔をしてしまいたい。ただ、それにはこの嵐獅丸の名前が邪魔をする。
こんな役割、望んで背負ったわけじゃないのに。
そう言って胸元のさらしを見る。
嵐獅丸が女では格好が付かないと言われた。正直、ムチャクチャな話だと思う。なんでそんなことのために、人生を決められなくっちゃいけないんだ。
でも……ぼくがそれに逆らおうとしていないのも事実。
それとも、以前出会った月帝姫――そっちも名前に反して男の子だったけど――彼なら話を聞いてどう思うだろうか?
「阿羅多様! 夕餉の時間ですぞ!」
「分かった、今降りるよ」
木の下から家臣が呼びかけてくる。それにつられてお腹がくーとなる。嵐獅丸だってお腹は空くんだ。旋剣の構えでも使って派手に降りようかとも思ったけど、また「能力を妄りに使うな」とか怒られるだけだから止めておこう。正直、能力の使い道なんて「そんなもの」程度がふさわしいと思うのに。
でも、多分戦いは近いんだろうな。
このまま、何も無ければ良いのに……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ひゃっはー! 水だ! 食料だ!」
「さすがは、『赤い風(サンタナ)』の旦那だ。見ろよ、あの用心棒。ほうほうの体で逃げやがった」
照りつける太陽の下、俺様は奪い取った水を全身にかける。
気分が良い。
やっぱり、口うるさいジジイ共の所をおん出て正解だった。
雷の力を生かすには云々とか言っていやがったが、要はこれが一番楽な使い道だろ。
「俺に言わせりゃな、魔剣士なんてカモなんだよ。あいつ等は決まって最初に構えるから、そこに俺様がビシャンとやってやりゃ、一撃よ」
おーっと声が上がる。そうそう、これだよ、これ!
たしかに、強い能力者連中も結構いやがる。
そんな中で飯食って行くのは正直大変だ。
ただ、こうやって自分の力でものを手に入れるってのは、正直悪くねぇ。
明日どうなるのかなんて、先のことは分からない。
だから、俺様はこうやって、全力で今を楽しむだけだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
これらは忘却期の戦士達。
魎夜はそのどれでもあり、どれでも無かった。
ただ、それを眺めていた。
自分の為すべきことを問うために。