2021年11月21日(日)宝塚大劇場で花組公演を観劇して参りました。

 

帰りの電車でお隣に、すみれ色の袋をお持ちの方が。

その方は和装でした。

 

髪はうなじの位置で結い、帯はぺたんこに近い状態。

観劇への配慮を感じる髪型と帯でした。

 

出遅れた感はあるものの、和装で観劇といえば、あの話題ですね。


SixTONES 京本大我主演・ディズニーミュージカル『ニュージーズ』梅芸千秋楽にて、最前列に三人並んで舞妓さん。

髪型・帯で後方への視界を妨げた件。

(別のやはり前方席に芸妓さんも観劇していたそうですね)

 

さらにお茶屋さんが、そのお招ばれをSNSに投稿。

非難を浴び、謝罪するも、的外れだと火に油を注ぎました。

 

「後ろの席にあらかじめ謝罪した」

「後ろの席に座布団を配った」

 

…いやいやいや。


それ以前に、高く結い上げて簪をつけた髪型や、ふくらんだ帯で観劇するのが問題。

しかも、チケットが入手困難な舞台なのに。

 

…と思った人が多かったのは、想像に難くありません。

 

チケットに額面以上の価値を見出している人が、それだけ多いから。

作品や出演者への愛が深いあらわれ。

 

これには擁護も出ました。

 

・舞妓や芸妓は、客の招待で観劇したのだろう。

・それなら仕事だし、フル装備での出勤は致し方なし。

・舞妓さんに罪は無い。

・責任は招待者や、受けたお茶屋にある。

 

そうなんですよね。

矢面に立たされた舞妓さんは確かに気の毒。

 

ちなみに、舞妓さんは地毛で日本髪を結っています。

そのため、1ヶ月に一度しか髪を解けないそうな。

結い直しは時間もお金もかかりますものね。

 

ちなみに芸妓になると、かつら着用が認められます。

現代の芸妓さんは、ほとんどの方がかつらでしょう。

 

 

舞妓や芸妓、関取衆を宝塚大劇場で見かける事があります。

あの後ろの席の人、つらいやろなぁ…と想像してきました。

 

今回のSNS炎上で感じたのは

「むしろ今まで問題にならなかったのが不思議」


 

一つには、舞妓や芸妓がよく出入りする劇場には元々それなりの設備が整備されているからでしょう。

 

歌舞伎が上演される演舞場(歌舞伎座、南座など)や、歌舞練場には桟敷席があります。

 

壁に沿って、一般の座席より一段高くなっている座席がありますよね。

あれが桟敷席です。

 

桟敷席は後ろが壁です。

誰の視線も遮りません。

 

壁沿いゆえ、客席から舞台を集中して見る場合、視界にも入りにくい。

 

同時に、舞台からも客席からも(見ようと思えば)桟敷席はよく見えます。

 

壁際にぐるりと一段高い席が並んでいるんですものね。

今は椅子席なので、上半身しか見えぬとはいえ、一般席より遥かに。

 

桟敷席に舞妓や芸妓の綺麗どころが鈴なりに並ぶと、それは華やか。

 

京都の演舞場では、桟敷席の舞妓や芸妓を拝むことも秘かな楽しみだったりします。

 

舞妓や芸妓を招いた客は、その延長にある感覚だったのかもしれませんね。

 

残念ながら、洋式の劇場には桟敷席はほぼないんじゃよ…。

 

ボックス席が、桟敷席にあたると言えましょうか。

 

少数ながら、壁際に一段高く配置された席がある劇場もあります。

兵庫県立芸術文化センター(大ホール)がそうです。

 

中之島フェスティバルホール(大阪)も二階席以上に背後が壁になってるサイド席が。

 

そういう構造の席なら、華やかな日本髪と和装が劇場の彩りとなり、他の観客の目も楽しませられるのにね。

 

チケット入手困難舞台の良席で、周囲の視界を妨げること。

 

劇場の構造や客層を考慮し、相応の配慮をすることが今後、根づいていきますように。

 

お茶屋さんや舞妓さんもお仕事で致し方ない側面はあったでしょう。

招待して下さった「ご贔屓さん」を大切にするが故の、営業用フル装備での観劇。

 

ただ、それが為に、招待主もSNSで攻撃されることに。

「遊び方が粋じゃない」と。

 

…もしも舞妓や芸妓に「心置きなく楽しんでほしい」なら、「一日貸切」の『お花』で招待する手もありますね。

 

丸一日、舞妓さんを貸し切り、チケットと美容院代を渡して「遊んでおいで」と。

美容院代は、髪を解く用と結い直す用。

髪を解き、洋服でミュージカル観劇。

そんな『お花』は太っ腹だし、粋だと思います。

 

舞妓さんは置屋で起居し、芸事のお稽古やお座敷で毎日忙しく、純粋な休日は数えるほど。

そこで、「自由に羽根を伸ばしておいで」と丸一日貸切の『お花』…つまり、休日をプレゼント。

遊び慣れた旦那は、そんな粋な計らいをする人もいたそうな。

 

遊び方を知っている人の余裕ですね。

裏返せば、それくらいの余裕がなければ、お茶屋遊びに手を出すな、って事でしょうか。

 

お茶屋遊びは、一般的には浸透していません。

(浸透以前に、知らない人も多いでしょう)

 

圧倒的多数の一般人にとって、お茶屋遊びは一生無縁。

舞妓さんの事情も、お茶屋とご贔屓さんの事情も、知る訳がない。

 

SNSで擁護してくれた人々は知識があるか、想像力が豊かなのでしょう。

庇ってくれて感謝ですね、お茶屋さんからすれば。

 

これを機に「喉元すぎれば熱さ忘れる」のではなく、ご贔屓さんやお茶屋さんの「今後の対策」を意識する機会になれば、と思います。

 

舞妓さんや芸妓さん本人は、仕事がらみだと個人の一存では難しいでしょうな。

 

和装での観劇は、背中を椅子の座面にぴったりつけるのは難しいですね。

配慮して、帯をペタンコにしても、多少の厚みは出ますし。

 

とはいえ、できる限りの配慮をしている姿を拝見すると、「和装=ダメ」とも言い難く。

気遣いを感じられるかどうか、は大きいと思います。

 

 

今回の騒動で、傷ついたのは舞台『ニュージーズ』をとっても観たかった人全てでしょう。

 

チケットを取れなかった人。

観に行ったけど、視界を遮られた人。

遮られる程ではなくても、視界に入って気が散った人。

 

チケットの価値を想像できるだけに、どれほど悲しく、悔しかった事か…。

 

主演の京本大我くんファンの場合、多くはジャニーズFC(ファミリークラブ)を通してチケットを申し込んだかと。

申込枠は最大2枚までだったとか。

抽選ですから、1枚も取れなかった人もいたかもしれません。

ジャニーズは第3希望位まで記入する形式ではありますが…。

(今も変わっていなければ)

 

激しい怒りの根源は、深い悲しみです。

 

チケットに額面以上の価値を見出している人が、それだけ多いから。

作品や出演者への愛が、それだけ深いから。

 

インターネットの普及で「一般人」「一般客」の声が伝播しやすくなりました。

その功罪はひとまず置いておいて。

 

一人一人がより心地よく観劇できる環境が整備されますように。

 

そうでなければ、劇場から客足は遠のきます。

 

誰が高いチケット代や交通費を払って、不快な思いをしに行くでしょうか。

 

「大事なお客様」や「えらい関係者」も大切でしょう。

 

とはいえ、座席を占める大半は「名もない一般客」です。

 

お付き合いや仕事といった、しがらみに縛られない人々。

純粋に「好き」で「観たくて」チケットを申込み、劇場へ足を運ぶ人々。

それが名もない一般客です。

 

桟敷を華やかにしてくれる存在も、天井桟敷を埋めてくれる人々も、等しく大切な観客(のはず)です。

 

※天井桟敷は、天井に近い席。

 二階や三階の後方席、転じて「悪席」「末席」を意味します。

 

「観客が入ってこそ、舞台は完成する」と異口同音に語る舞台人は少なくありません。

 

コロナ禍で中止の憂き目にあった演目が多い中で、それは切実な思いを込めて語られました。

 

舞台演劇の灯を絶やさない為にも、改善した方が良い課題には真摯な取り組みを望みます。

 

今回の件でいえば、お茶屋さんのみならず、招待主や、周辺事情を知る関係者など、一人一人が「我が事」として今後に繋げて下さる事を切に望みます。

 

∇根深い課題でしょうな

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