佐藤くんと付き合ったのは、もう10年近く前のことだ。
大学のクラスで出会った。
彼は勉強も出来、礼儀正しく、優しく、何だか目立つ存在だった。
すぐにお互いに好きになり、私は彼に夢中になると同時にとても苦しい思いをすることになった。
彼の部屋に行くと、前の彼女の傘や服がまだ置かれたままになっていた。
嫉妬すると同時に、彼がそういうことに対して、無頓着で鈍感なことに傷ついた。
自分の置かれた立場もあった。彼の家庭環境の複雑さ、私の実家もギクシャクした家族関係で、その他の事情もあって、お互いの両親に喜んでもらえない交際なのは目に見えていた。
付き合っていても不安で不安で、ヤキモチや独占欲、なんだか私がおかしくなっていった。
大学の授業はハードで、自分も彼も進路の岐路に立たされている時で、心身ともに疲れていた私は微熱が連日出てどんどん痩せていった。
病院を受診すると、肝炎やら溶連菌やら、生まれて初めてかかる病気のオンパレードでとにかく極度の疲労から衰弱しきっているということで緊急入院となった。
一ヶ月弱の入院中、私はなおも彼を電話やメールで追い詰めた。
「私もう別れたい。私のことどう思ってるん?」
そんなことばっかり言ってた気がする。
そして、とうとう彼から
「別れたい。」
と言われてしまった。
別れたい、と私が言うのは引き止めてくれるとタカをくくっていたから。
別れた方がいずれは良いけれど、今は違う。そのタイミングは自分で決める。
勝手な私はそんな風に思っていた。
振られた時のショックは相当で、今これを書いていてもうまだ若干蘇ってくる。
それからも未練がましい私は、佐藤くんに手紙を書いたり、会いに行ったり、その度に傷ついた。
そのグチャグチャな気持ちを引きずって半年後、就職した先で、山本君と出会った。
山本くんと初めて会った時、あまりの男前ぶりにちょっとドキドキしたのを覚えている。
20人近くいる同期入社でも、入社前から実績がある山本君への評価は既に高く、何だか1人特別扱いされている感じで、ちょっと面白くない気持ちを持ったのも書いていて思い出した。
山本君には当時、彼女がいた。
宴席で誰かがそれを山本君から聞き出して、知らん振りして実は耳にした時は少しだけガッカリした。
山本くんは良き同僚で、時々一緒に自転車で帰ることがあった。
雑談の中で恋愛のことを聞かれ、佐藤くんのことをガッツリ引きずっていた私は、それまでの経緯を説明した。
「結局、私が自分の気持ちを押し付け過ぎたり、不安や嫉妬をぶつけすぎて、あかんかったやわ。」
それに対し、山本君は
「そんなぐらい、男やったら受け止めてやれよ、と思うけどな。
それに部屋に前の彼女の物を置いとくなんて配慮なさ過ぎやで。」
そう言われて、初めて私は自分のヤキモチも普通だったのか?と、少し安心した。
それからしばらくして、山本君が彼女と別れたらしいと人から聞いた。
既に良い兄妹くらいの関係になっていた私は、だから急に山本君からデートに誘われた時、本当に本当に驚いた。
佐藤くんとの苦い恋愛は、数年経っても私を臆病にしていた。
そのくせ、人を愛したい、愛されたい、寂しい気持ちで一杯だった。
信頼できる先輩に山本君からくどかれて戸惑っている、からかわれてるんじゃないだろうか、相談に乗ってもらうと
「あほやなあ、私からすると、やっと来たかーやでホンマに。自分の気持ちに素直にな。山本くんはあなたのこと真剣やで。
」
それから、山本君の本気の口説きが始まった。
決定打は、仕事帰りに自転車で帰っている時だった。
「私は自分に自信がない。山本君は仕事も出来て、周りからの信頼や人気も凄いある。私と付き合うことでマイナスになる。」
「ボチボチさんは本当に自信がないんやなあ、仮に俺が人気者でモテたとして、でも俺はそんな世界に興味がないとしたら?
俺が一緒にいたいのはボチボチさんやのに?」
こんな話をひたすら2.3時間、土砂降りの雨が降る中で傘を差しながら話し合った。
「俺は出会った時から、ボチボチさんのことずっと気になってた。好きやった。」
嬉しい、素直にありがたいと思った。
こんなややこしい人間の私を、受け止めようとしてくれて本当にただありがたいと思った。
そして、しばらくしてから付き合うようになった。
山本君は本当に素敵な人だった。
重たい荷物は黙って持ってくれるし、並んで歩いていてもスッと自分が車道側に行く
。そんなささいなことから始まって、精神面でもとにかくいつも味方でいてくれた。
でも、忘れた頃に佐藤くんを思い出す。
佐藤くんは私と同業者であるけれど、なんだかすごく芸術家肌な所があって、すごく繊細な感性でみずみずしい写真を撮る。
いったらカメラ小僧だ。
アマチュアだが雑誌でも特集を組まれたりしていたので、腕は確かなのだと思う。
バカな私は、彼のインスタグラム?を発見してしまった。
最近の彼が撮った写真が、数百枚、目に飛び込んできた。
自宅も新築なんだろう、吹き抜けのある真っ白な建具や壁、無垢の床、おしゃれなオープン階段、そんな彼の日常を見てしまった。
あの頃に戻りたいなんて思わない。でも、彼らしい美しいセンス溢れた部屋の様子を見て、2人で雑誌見ながらどんな家に住みたいか話したこと、猫を飼いたいと言ってたこと、
そんな細かな会話まで鮮明に思い出してしまった。
そして、懐かしいと思い、連絡してみようかなんてことまで考えた。
今なら穏やかな気持ちで元気?なんて聞けるかも。
いや、違う。私の中につまらない対抗心があって、振られても幸せになった私を見てほしい、歪んだ未練がある。
これは危ない気持ちだ。
黙って耐えれば良い気持ちかもしれない。
だけど、弱い私はブログに吐き出すことで、今の気持ちを整理して、厚かましいけれどブロ友さんにそっちに行くなと発破をかけてほしいのだ。
1番の相談相手である山本君は、皆さんの予想を裏切らずその後、結婚して夫となった。山本君を、夫を悲しませたくない。