下総香取は、古くは香取の海と呼ばれ、利根川水郷地帯にある湿地帯であった。元来、水と緑に恵まれた田園地帯で、ホタルの種類も多く、群生地も見られる。

 

 その一角にある航空宇宙センターでは、近頃ホタルの飛び交う様子が増えた。通常は初夏に見られる成虫が、ここでは秋になっても見られるようだと噂になり、その為、近隣の人々もホタル観賞に訪れる程である。

 

 斎藤たちは、乾との面会を橋本に依頼し、何度目かの催促でやっと面会することができた。

 

 「乾さん、やっとお目に書かれましたね。私達の希望は、自分の頭皮の細胞がどうなっているのか、それを知りたいだけなんです。」

 

 「やあ、なかなかスケジュールが空かなくて失礼しました。早速ですが、これがあなた方の頭皮細胞です。今のところ、変化は見られませんでした。ご確認頂いて、宜しければ、もう処分しようと考えています。」

 

 「そうですか、ではちょっと拝見させてください。」もう処分すると言う乾の言葉に、斎藤は何とも失礼な話だと思ったが、まずは、自分の細胞だと言われたモノを見てみることにした。

 

 モニターに拡大された、その細胞は一見して、何の変哲もない様子で、それ以上の事はもちろん斎藤には分からなかった。それが、本当に自分の細胞かどうか、それを確認するすべもなく、言われたことを信じるより他にはない。

 

 『やはり、話してみたところで、真実は何も分からないのだな。』そう確信すると、斎藤は、一歩踏み出し、乾の顔を間近に覗き込んだ。

 

 「どうしましたか?」乾は、突然の斎藤の行動に少し驚いた。

 

 「いえね、どうしても先日の検査の時の事が忘れられないのですよ。何故、黙って、頭皮を削ったのか、それが気になるのですよ。

 

 そして、この細胞には何も変化は見られないと、言われますが、それならどうして、直ぐに見せて頂けなかったのか、疑問なのですよ。

 

 私の目をよく見て、本当の所を話してもらえますか。」

 

 斎藤と中西が、乾を挟むようにして取り囲み、その目を見つめ、乾の記憶の中に入り込もうとした。

 

 

 『おい、中西、ここは乾の記憶の中か?』そこは、先日受けた検査室のようだったが、誰の姿もなかった。

 

 『誰もいませんね、どうなったのでしょうか。』中西も、少し勝手が違うようで、戸惑っていた。

 

 暫くして、斎藤がシャーレに置かれた2人の細胞に気がついた。『あっ、これだな。俺たちの細胞だ。』中西も、それに気が付き『すると、ここで待っていれば。ホタルが来ますね。』と、安心したように言った。