しびれを切らしたのか、大沢美穂がまた話し出した。
「ここには、私の質問を理解できる人はいない様ですね。でも、それはおかしいですね。それでは一体誰が、この人工植物で出来た列車ハウスを作ったのか。
これを作った人がいるはずです。つまり、ここにはもう一人隠れた誰かがいるのか。それとも、この列車ハウス自体が、その人なのか。
吾妻春清氏の論文によれば、楔形文字のタブレットと共に、植物の種も発見されたはず。その種が、勝手に発芽し成長したのか。」
大沢美穂の質問は続くのだが、皆、黙ったままだった。
「皆さん、黙ったままでいるところを見ると、知っているのですね。知っているから答えられないのですね。では、もう一つの車両の中を確認させてください。それで、はっきりするでしょうから。」
食堂車を見回し、やはり誰もいない事を確認すると、「分かりました。結論は、植物なのですね。意志を持った植物が、この列車ハウスを作った、と言うことですね。
でも、少しがっかりしました。もう少し、皆さんが話し相手になってくれると思いましたけど。残念ながら期待外れでした。」と、大沢美穂は、自問自答した挙句に勝手に結論を出したのだった。
意志を持った植物と言う結論は、斎藤にも、清人にも意外だった。
確かに、マザーがいて、この列車ハウスのことを管理している。だが、そのマザーはとても優秀な機械、一種のコンピューターのようなものだと思っていた。マザー自身が植物だとは、思っていなかったのだ。
だが、大沢美穂にそう説明されると、妙に納得がいった。つまり、この列車ハウス全体がマザーなのだと。
皆が、大沢美穂の説明に納得したように、感心していると、それまで黙っていた、里美が沈黙を破った。
「大沢美穂さん、私は、城外開拓区警察署の柳田里美と言います。失礼ですが、貴方の事を調べさせて頂きました。あなたは、ウイーン時代にボヘミア出身の経済学者ミューラー教授の元で学びましたね。
ミューラー教授とは、ミス首都圏として活動していた際にあるレセプションで知り合った、そうでしたね。」
「そうよ、よく調べたわね。それで、何が言いたいの。」
「あなたは、どうしてミューラー教授の元で学ぼうと思われたのですか。ただ単にレセプションで知り合って個人的な関係があったから、それが理由ですか。
それとも、ミューラー教授の研究に興味があったからですか。」
里美は、大沢美穂の悠然とした態度、どこか此方を見下した感のある態度に反発を覚えていた。それで、敢えて教授との個人的な関係を、持ち出してみたのだ。