「それにしても、あのレポーターは何度か見かけるが、どこの放送局なんだ。」斎藤は、レポーターが気になるらしく、中西に尋ねた。
「あれは、日本中央放送、NTHのレポーターですよ。才色兼備で有名ですよ。そのうち政界に出るんじゃないかって噂もありますよ。」
「そうか。中西もそういうことには詳しいな。」
「どういう意味ですか。自分だって、世の中の流行ぐらいは知っていますよ。逆に斎藤さんが知らなさ過ぎなんじゃないですか。」
斎藤は、かつて自分が関係した事件でマスコミには痛い目に遭っていた。誘拐事件を単独行動で解決した為、警察上層部からも睨まれ、しかもマスコミからも、危険な捜査だったと酷評された。
解決した瞬間にはヒーロー扱いだったのだが、事情を知った一部のマスコミが、危険な単独捜査だった、と書き立てた。すると、他のマスコミも一斉に手のひら返しで、警察の内部統制が取れていないと問題にしだしたのである。
それ以来、マスコミには不審の念を抱いている。当然テレビや新聞も、必要以外の事には関心を示さなくなっていたのだ。
それでも、大沢美穂と言うレポーターには感じるところがあった。何故、こんな田舎の開拓地の事件を取り上げるのか。
それが、唯の新人レポーターならばまだ分かる。しかし、中西の話を信用すれば、才色兼備の人気レポーターだと言う。それが気に入らない。何か、わからないが、引っかかるものがあった。
夜になっても、一部のマスコミの車が残っていた。夜間の撮影を続けているのだ。
「いやあ、帰りに列車ハウスに寄って行きたかったのですが、これじゃあ寄れませんね。」
と、中西が忌々しそうに、マスコミの車の方を見て、顔をしかめながら言う。
「そうだな、あれ以来、モナちゃんにも会ってないからな。せっかくの機会だから、お茶でも飲みたかったのだが。仕方がない、もう交代の時間だしな、署に帰るとするか。」
2人で、帰り支度をしていると、車のライトに黒いシルエットが浮かび上がり、長い髪を揺らしながら近づいてくる。顔は分からないが、スタイルのよさそうな女性と思われた。
「すみません、少しお話を伺ってもよろしいですか。」と、女性が問いかけるのだが、逆光の為、顔が真っ黒で誰だかわからない。だが、その声は、2人にはとても心地よく響いた。