「その列車ハウスなのだが、警察が調べているのだ、君は一度帰ったらどうなのだ。清人君一人残して心配だろう。」と、高岳は意を決して話題を変えた。
「いえ、清人はもう18歳になりますから、一人で大丈夫です。それに私が列車ハウスに戻ったとなれば、それこそ警察が調べに来るでしょう。中を見せたくはないのです。」
吾妻は、列車ハウスの中に、外部の人間を入れてはならないと、思っていた。そうすれば、そこにある植物たちの秘密が知られる、その事は、飛鳥研究所にも秘密にしていたのである。
高岳は、古代の文明に宇宙航空科学の知識があると考えていた、だから宇宙船があることも予想していたが、しかしそれはあくまで地球人類の文明だというのが前提である。もしそれが、地球外生命の文明だとすれば、全く話が違ってくる。
それがどんな生命で、どんな能力を持ち、どのような生存形態なのか、全ては予測不可能なのだ。人類にとって有害なものかもしれない、人類が危険にさらされるのかも知れない。
その様な可能性まで考慮しなければならない。それは、通常の考古学では扱うことのできない種類の問題だ。
「いずれにせよ、吾妻君、君は暫く休んだ方が良いと思う。25年は長すぎたのかも知れないな。この機会に千春さんも、日本に帰ってきた方が良いだろう。」
高岳は、そう言って、吾妻の研究を打ち切ることを考え始めた。
「そこまで仰るのであれば、私も考えてみます。千春とも相談して、近いうちに御返事いたします。」
吾妻は、高岳がこの研究から手を引こうとしている、少なくとも、自分を研究から外したいのだろう、と感じた。確かに、事件が大げさになれば、この研究が非難されることはあっても、信頼されることはないのだろう。それは吾妻にもわかる。
しかし、それでも吾妻には、この騒ぎが、タブレットに書かれていることと、関係があるのだ、と確信していた。そして、その事は確かに警告したのだ、と思い、自分の役割は果たしたのだ、と考えた。
吾妻にとっては、雲の事も、蜂の事も、どうでもよい。それよりも、列車ハウスの植物を守ることが大事であり、タブレットを最後まで解読しきることを優先しようと思った。
「最後にもう一度申し上げますが、あの雲から出てきたという蜂の騒ぎですが、あれは、人類に対する警告だ、と私は思っています。かつて5万年前に滅びた古代バビロンの二の舞いにならぬよう、注意すべきだと思っています。」
それだけ言うと、吾妻は飛鳥研究所を後にした。最後がこんな形になるとは、予想外だったが、しかしあの植物を秘密にした時から、いつかこんな日が来るのでは、と心配しなかった分けではなかった。
研究所の窓から、夕日が見え、西の空がオレンジ色に染まる。これが最後なのだと思うと、初めてここに来た日のことや、バビロンで初めて、タブレットを発掘した日のこと等が思い出された。
『25年は、やはり長かったのだな。』と吾妻も、一人でつぶやいた。