「ところで、中西、飛鳥研究所だが、やはりお前が言っていたように、何かおかしい様に、俺も思う。だから、そっちをお前が納得いくように調べてみろ。いいな。」
中西は、この2人が対立するのではないか、そうするとまた斎藤の怒鳴り声が響き、自分にとばっちりがかかるのではないか、と心配しながら様子を伺っていたのだが、意外な結果に少しホッとした。
中西は、斎藤と組んでもう3年になる。かつては、斎藤と言えば『上司に逆らってばかりで、あれと組まされれば出世はあきらめろということだ』という評判だった。
一方で、たった一度だけだが誘拐事件を解決したことがある。その時も、周囲の声を無視して、独断で犯人を割り出し、単独で犯人のアジトに飛び込んだ。結果的に、子供を救い出したものだから、懲戒免職は免れたものの、上司の怒りは尋常ではなかった。ただの偶然なのか、一部では斎藤の特殊能力だという説もあった。
殆どがくだらない事件なのだが、確かに、犯人を言い当てることはあったのだ。だが、それでも、何の根拠もなく自説を主張するものだから、評価されるどころか変人扱いされていた。
そんな斎藤と組むことになった中西は、斎藤とじかに接してみて、やはり頑固な変人だと確信し、出世は早々にあきらめた。が、代わりに上司に気兼ねなく自説を主張する自由を得たのだ。
警察官が帰った後、モナは機械たちと何やら話し込んでいた。その結果、僕が今まで知らなかったことを教えてくれた。
まず機械たちには名前があったのだ。料理を作ったり、洗い物をしたりする炊事場の担当はレインという。食事や飲み物を運んでくれたり、ベッドメイクや掃除などをしてくれるのは、マリアという。そして、外部との応答をしたり、列車ハウスの維持管理全般をマザーが引き受けている。
親代わりとなって、僕に諸々の事を教えてくれたのはマザーだった。マザーは、思考する機械だ。列車ハウスの周囲を常に観察し、どんな小さな変化も見逃さない。快適な環境を維持するために、様々なデータ解析を行い、思考実験を繰り返し問題解決の最適解を導き出す。
僕などは殆どボーっとしていて、外の景色を見て、ただ何も思わずに時がたつ。美しいと感じたり、変だな、雲行きが怪しい、などと思うこともあるが、大抵は何も思わずに、時がたつ儘に任せている。いつの間にか眠っていることもしばしばだ。
マザーは、多分僕がここに来た時から、休まずに思考を続け、僕を守っている。問題が何も無いと思える時にも、休まずに監視して、絶えず働いている。絶えず分析し、修正している。そのおかげで、僕は生きてこられたのだろう。ここは、僕にとっては完璧な楽園だ。