香が生まれてもう10年になる、1991年、この年、山名響子が死ぬ年だ。

 

「kさん、いよいよこの時が来てしまったね。大丈夫か?」

 

「うん、未だに、波多野の行方も分からないし、鈴木さんの先輩の死の原因も分からないままだ。鈴木さんの方こそ、いつまでも、ゆかりさんと結婚しないままで大丈夫なのか?」

 

「実は、昨日の夜、夢に先輩が出て来たんだよ。なんか、何度死んでも、生まれ変わって、またゆかりさんと一緒になるっていうんだよな。これじゃ、俺はどうにも出来ないよ。」

 

「でも、この10年は兎に角無事に切り抜けた。月成も結局、何もできなかったようだし。」

 

「だが、あいつらが、相変わらず北の連中と組んで何かをやっているのは間違いない。ただ、何を目指しているのかが、分からないんだよな。」

 

「山名響子、凛ちゃんは何故死んだのかな?」

 

「病気では無さそうなんだ。教団との関係も特に問題はなさそうだ。時々、セミナーの講師として出席しているけど、そんなに負担になっている分けではないようだ。」

 

「そうすると、全くの事故か?」

 

「でも、聖名を貰って、重要な地位にあると言われているのだから、単なる事故で死ぬだろうか?その死も予定されているのだろうか?」

 

「月成の言っていた予言にあるのかな?」

 

―――――― 予言は、どうなのか分からないが、昨年から今年にかけては世界的に変化が激しい気がする。昨年のドイツ統一に続き、イラクでの湾岸戦争、ソ連軍のリトアニア侵攻

 

日本は、バブルが崩壊した年でもあり、福井県で原子力事故も起きた。

 

「その昔、戦前の右翼の人が、イスラム教の重要性について話していたことがある。もし、教団が反欧米を目指しているのなら、状況的には近づいているのかも知れないな。」

 

「どう云う事だ?」

 

「イランの台頭と朝鮮半島との関係強化だ。湾岸戦争は、結局イランが発端とも言える。」

 

「イラン革命と、イラン・イラク戦争か?」

 

「そうだよ。イラン革命によって、北の共和国はイランと国交を結んだ。そして、ソ連の崩壊は、イスラムの復権に直接つながるだろう。アフガニスタンでの敗北がソ連を崩壊させた原因だからね。」

 

「どうして、そんな事が教団と関係してくるのか?」

 

「彼らが、反欧米・アジアの独立運動を目指していたとすれば、北の共和国とイランは結びつくだろう、間に中国もある。全ては、反欧米で結び付けられる。」

 

「つまり、戦争を企んでいるのか?」

 

「戦争まで行くのかは分からないけど、世界情勢が流動化しているときは革命には有利だ。クーデターによる政権崩壊も起こしやすい。」

 

「kさんの考えでは、教団が何かを仕掛けてくるという事か?」

 

「そうだよ、だから鈴木さんには、公安の情報を手に入れて欲しいんだけど。」

 

「まあ、俺も一応本庁に異動になったからな。多少は公安と接する機会があるかも知れない。」