久しぶりに会った、月成は、高場凛の娘の話を持ち出した。

 

「波多野さん、あなたの娘が清原の手によって育てられようとしています。それで、良いのですか?」

 

「俺の娘って、梢の事か?」

 

「違いますよ、高場凛の娘ですよ。」

 

「高場凛・・・? 誰のことだ?」

 

「どうしたんですか? アーリア商会で事務をやっていた高場凛ですよ。」

 

「事務をやっていたのは、山名響子のはずだ。」

 

「その、山名響子は、神州光輪会によって、聖名が高場凛と名付けられたではないですか。」

 

「いや、ちょっと待ってくれ。何だか、記憶が混乱しているようだ。どうも、山の中に長くいたせいか、記憶がおかしい。

 

高場凛が、山名響子なんだな?」

 

「そうですよ。」

 

「で、娘っていうのは、誰と誰の娘だ?」

 

「あなたと、高場凛の間にできた娘ですよ。香と名付けられましたけど。」

 

「俺は、娘のことは知らない。高場凛も何も言ってなかったんだ。どうして娘が出来たんだ?」

 

「良く思い出してください。あなたは、高場凛との間で娘を作り、それがもとで、高場凛は実家と疎遠になったんです。しかし、高場凛と籍を入れるわけでもなく、黙っていなくなった。」

 

「黙って、居なくなったのは事実だが、他は俺の記憶とは違っている。」

 

「高場凛で思い出せなければ、山名響子の名前で考えて下さい。覚えがあるはずですよ。」

 

―――――― 確かに、山名響子との間で子供が出来たことがあった。その為、結婚してくれと言われたこともあったような気がする。だが、高場凛とは何もない。その名前に親しみを感じない。

 

よく考えれば、月成と言う名前にも親しみはない。いや、ここの世界では、月成を知っているのかも知れないが、以前、山名響子と親しかった頃には、月成などはいなかったような気がする。

 

――――――

 

「月成、お前は、どこから来たのだ?言っておくが、高場凛と俺の間に子供はいない。そんな関係ではないからだ。山名響子との間で子供がいたが、それは前の世界でのことだ。

その時には、お前はいなかった。少なくとも、俺の前にはいなかった。誰なんだお前は?」

 

「波多野さん、どうしたんですか?この世界とか、前の世界とか、急に何の話ですか?私にはさっぱりわかりません。」

 

―――――― 波多野は、どうしたんだ。役割を放棄するつもりか?波多野は、香の父親と定められている。その様に予言されたからだ。予言は成就されねばならない。そうで無ければ、香の存在が否定されるではないか。香は、『神の使い』として、これから教団の中心になっていく存在だ。それを、清原に邪魔されてはならない。

 

全ては、予言された通りに進めなければならないのだ。

 

――――――

 

「月成、何をとぼけているんだ。俺は、思い出したのだよ。前の世界で、香の免許証を拾った事がある。その時は、香が俺の娘だ何て、知らなかったよ。でも、お前は、今、香が俺の娘だと言ったな。

 

 あの時、何故香の免許証を俺が拾う羽目になったのか、それは分からないが、だが、俺が香の事を知ったのは、今初めてだ。それを、俺に伝えたお前は、確かに前の世界にはいなかったって事だよ。お前が、ここで何をしようとしているのかは知らないが、少なくとも香の事は俺にはもう関係のない事だ。」