夜遅く、皆が寝静まったころを見計らい、川南はプレハブの寮を後にした。
初めに行ったのは、川のそばの洞窟。隠してある、水晶を取りに行った。
夏の夜の満天の星空の元、夜風が心地よく、思ったより足取りは軽かった。
洞窟に着くと、全部を持ち出すことは出来ないが、大きな塊を選んで、袋に詰め、その夜は洞窟に泊まった。
一人になって、誰もいない洞窟にいると、段々と心細くなってくる。殺した男の幽霊が出てくるのではないかと思うと、とても眠れない。見つかるのではないか、という思いも強くなってきた。
結局、ほとんど眠れぬまま、夜が明け、洞窟を後にして、山に入った。山の上の峠まで来ると、下界を見下ろした。はるか下の方に、甲州建設と思しき建物が見える。今頃は、自分がいなくなったと知って、騒いでいることだろう。もう、戻るわけにもいかない。
何処へ行く当てもないが、まずは東を目指して歩いた。だが、歩き出すとすぐにまたやぶの中に入ってしまう。もうこの辺りには、まともな道はない。あったとしても、道に出ることもできない。道を行けば、甲州建設の者に出会う可能性があるからだ。
見上げると、高い木にツタの枝や葉っぱも絡まり、見通しも悪い。足下も、シダ類の葉のような、腐葉土の様な中に、枯れ枝や、コケなどもあり歩きにくい。石も岩の様に大きくゴロゴロとして、うっかりすると足を滑らして転びそうになる。転んでけがでもしたら、助けを求めることもできず、気が付くと、辺りは薄暗くなり、ひょっとして、クマにでも出会ったらどうしようなどと、また怖くなる。
こんな山の中でも、やぶ蚊が多く一度気になりだすと、痒くてたまらなくなる。
更に酷いのは、所々にハエの集団がいることだ。何故、群れを成しているのか分からないが、きっと何か動物の死骸でもあるのかもしれない。ハエのような、アブのような虫が、突然襲ってくる。怖くなって走って逃げるのだが、振り切ることもできない。
やっとの思いで、逃げ出して、一息つきたいのだが、その頃には、自分がどこを歩いているのかも分からなくなっている。そんな状態で一日が過ぎた。
翌朝、山を少し下りて、谷川の水を飲む。まだ2日目なのだが、どこに向かっているのか、わからない。一応、朝は日の出の方に向かっているのだが、考えてみれば、ずっと東へ向かっているわけではない、水を求めて、或は虫から逃げ、崖を避けて、あちこち出鱈目に歩いているような気もする。
このまま山道に迷って、野垂れ死にするのかも知れない、などと、そんな恐怖も湧いてくる。ふと、前方に、黒い物が動いているのが見える。かなり大きい。山で見る黒い獣と言えば熊だ。近すぎる、どうする?全身に恐怖が走る。足が止まって、その場に固まった。